第1章 “麦わら”との冒険
元ドラム王国
ドラムロッキー山頂の城
“航海士”の病室
*
“航海士”の高熱は、ケスチアという有毒のダニに噛まれたことによるものだった。
治療は順調。高熱も下がったのだろう。
“航海士”の安らかな寝顔。
その安らかさは、解熱だけでなく 彼女の竪琴の音によるものかもしれない。
彼女は、他に誰もいない病室のベッドサイドのイスに座り、ゆっくりとアルペジオを奏でている。
城内に響き渡るその音色は、冬島の冷たい空気をいっそう輝かせた。
8音で1フレーズのアルペジオが、3音目を伸ばしたままで止まった。
「ハッピーかい!?」
ドクトリーヌは気配を悟られたことを知り、そう声をかける。
「大丈夫そうで、本当によかった。どうもありがとうございました」
彼女は“航海士”を見つめたまま、ドクトリーヌに礼を言った。
「死にかけたが、死ななかったね。
ヒッヒッヒ!
で……
あんたのほうは どうするんだい?!」
彼女の息が止まる。首が固まってピクリとも動かせない。
「何の、ことですか?」
どうにか絞り出した平静な声。
「あたしゃ、医者だよ。
わからないとでも思ったかい?
こっちに来な。もののついでだ。
診るだけは診てやるよ」
部屋を出ていく2つの足音が遠のくのを確認してから“航海士”はゆっくり薄目を開けた。
*
─── そういうことか…
“航海士”の目には涙がにじむ。
この数ヶ月、共に笑い、汗をかき、時には血を流してきた。
『仲間』と呼ぶにふさわしい経験を共有してきたハズだ。
それでも彼女は、自分は『乗客』で『仲間』にはならないと言い続け、時々みんなから少しずつ距離をとる。
思えば、深い話は避けられてきた。
女の子同士なのにお風呂どころか、着替えすら一緒にした記憶はない。
彼女には、たくさんの恩があるし、彼女の音楽も大好きだ。
ひとりで何かと闘っていたんだ
つらいね
でも
話しては、くれなかったのね ───
“航海士”の涙の筋には、脈打つように次から次へと涙が流れた。