第1章 第一章
私を案内する為に前にいた兵士が一歩引いて此方を見る。目を合わせてみたがビシッと敬礼をして動かない。彼は本当に此処から先はついてきてくれないようだ。
私は意を決して目の前にある扉に手をかけた。
目的の場所までまだ遠いようだが、道は続いているので進むことにする。迷路のような生垣が視界を覆い、道を隠すが、不思議と迷うことはなかった。進んでいくに連れて高鳴っていく鼓動が何かを予知するように、見たことのない《はず》の景色を脳内に描く。
妖精を連れた緑の少年と幼い姫君。
絵画のように描いたその光景は脳内に浮かんですぐに消えた。
だけど、歯車がカチッと重なり合うようにその世界は目の前に現れ、背景がピタリと重なり合うのを感じた。脳内で姫君が立っていた場所に佇む青年。
金の髪を風に揺らし、何かを祈るように目蓋を閉じている美しいひと。
(……なんて綺麗なの……)
見惚れている間に彼はその目蓋を開いて蒼の瞳で私を見つめた。その瞬間、私は体の自由がきかなくなった。まるで雷に打たれたようだ。そう思った。そして、こうも思った。
(私、ずっと、この人のこと……)
最後は言葉にできなかった。言葉にする気持ちの余裕がなかったとも言える。どうしてそう思ったのかはわからなかったけれど、私は彼のことを随分、昔から知っていたような気がした。
「…《はじめまして》。うろこさん」
その言葉に違和感を感じたのは気のせいなのだと言い聞かせる。
「は、じめ、まして…」
昨日、姐さんの旦那さんに対し、緊張して声が震えているのは初めて聞いた、などと余裕そうに感想を述べたが、今の私は昨日の彼と同じ状態だ。声が震え、足も震え、上手く言葉を発することができない。
むしろ、彼が慣れないハイラル語を使いながら説明していたことはかなり凄かったのだと一日遅れで知る。
「ゼルダ……姫から、話は聞いてる。森の神殿に行くんだろう?」
金の睫毛が陽に照らされ、その蒼い瞳は海のように深い。でも、彼を海と例えるのは少し違う。それはまさに…
「俺の名はスカイ。森に住む狩人だ」
そう、空。澄み渡るほど晴れている空の青さ。雲ひとつない青空の爽やかな風のように透き通っている人。
「う、ろこです。よろ、しく」
お人形さんのように作られた彼の顔が、上擦っている私の声に少し目を見開くと口を抑えてくつくつと笑った。