第1章 第一章
突き出した槍を刃で受け止める。彼は私を背に庇っているからか、思ったように動けないようだ。私は慌てて後ろを振り返る。だが、もう戻れないように扉は閉ざされていた。
「くそ…」
彼の攻撃をかわすたびに宙を駆ける馬の蹄。
その音が部屋を揺らすように響き渡った。
防戦一方のスカイさんに余裕を見せる敵。
(せめて私にも戦う武器があれば…!!!)
黒い甲冑に覆われたその騎士に隙はない。下手に動いたところでさらに彼の足を引っ張るだけだろう。
(祈ることしかできないの!?)
彼の腕から流れた血が床を濡らした。
手の中にある温もりがスーッと冷えていくのを感じる。
蹄の隙間から聞こえてくる波の音…。
凍えるような冬の寒さではない。それよりも深く暗い底の静けさ…。
まるで海の水が手の中に溢れるような…。
〜神から与えれし力を使うときは具体的なイメージをするの〜
また頭に痛みが襲う。先ほど聞いた女の声と同じだ。
海の底に眠る女の声…!
〜ある時は剣のように鋭く、弓のように速く…!〜
手を覆う冷たさは刃のように鋭く尖り体から飛び出した。
私は両手を黒い馬に向ける。
馬の嗎…。
「今のは…」
痛みを覚えた馬が暴走しまた絵画の中へと消えていく。
「大丈夫か!?うろこ、今のは?」
「わからない…」
もう、手を凍えさせるほどの冷たさは感じない。
一度っきりの魔法だったのだろうか。
「でも、これで奴に隙ができた。絵画から出てくる直前を弓で狙えばいい」
「そんなことできるの?」
「できる。できなきゃいけないんだ」
彼は自身の口元に人差し指を置く。私は頷いて端へと避難した。
円を描くようにかけられた絵画たちの中心で、彼は目を閉じて耳を澄ます。
聞こえてくるのは蹄の音。
「そこだ!!!」
酷い呻き声、弓から飛びだした矢は黒い甲冑の隙間を走り敵の体内へと突き刺さる。
「すごい…」
主人の呻き声に暴走した馬はまた絵画の中へと走り去ってしまう。
「ファントムガノン、これで一騎討ちできるな」
残された黒い騎士は紅い目を光らせて此方を睨んだ。
その手に白い魔法を浮かばせて。
(どうして彼は、敵の名前を知っているの…?)
スカイさんは剣を握り直すと膝を軽く曲げ、戦闘態勢に入った。
互いを睨み合う時間はあまりにも静かで、それは星の瞬きよりも早く。
「はあ!!!!」