第1章 第一章
私達は誘われるように一番奥へと真っ直ぐに進んだ。
オカリナの音とは違う何かが私たちを待っている。
鳥のさえずりも聞こえない世界で私達の足音は酷く響く。
彼は私の一歩前を歩いていた。何かから私を護るように。
「…この音…」
太陽の光も届かぬこの神殿の奥底、闇の中からハープの音が聞こえる。
呼応するように響く木々の騒めき、どこか懐かしい調べ…。
「森のメヌエット…」
ふと口にした名に彼が目を見開いた。
「…なんでそれを、君が?」
「え、あ、いや、この曲に名前をつけるなら…って」
「……そうか…」
「あの、何か問題でも…」
「いや、ない」
ゼルダ姫もそうだが、彼も秘密を抱えすぎている。
いや、秘密を抱えているのではなく、私が何も知らないだけなのかもしれない。ここにいるのがゼルダ姫なら彼の言葉ひとつひとつを完璧に理解できたのだろうか。
勝手にそう考えてギュッと胸が締め付けられる。
この痛みは先への不安だ。きっとそう。
「この奥に何かがあるのは違いないな」
入り口にあれだけ魔物がいたというのに、神殿の中には生き物の呼吸の音さえ感じられない。だけど、彼は背中に背負っていた剣を取り出す。
「魔物が?」
「わからない。だが、この先は…」
彼がここに来るのは初めてじゃないことはわかっていた。
だけど、この先に一体何があるっていうの?
ハープの音が壁に跳ね返り、振動させ木霊する。
誘うように、歌うように。
「……うろこ」
「はい」
「気を抜くな」
「わかってる」
闇の間から覗いた大きな扉が音を立てて開く。
まるで私達が来るのを待っていたかのように。
ケタケタケタケタケタケタ
何かの笑い声が響き、背後から暗闇が迫ってくるように不安を感じる。
木々の鳴き声が大木を揺らし深い木管楽器のように震えた。
迷わず進む彼に置いてかれぬよう私も後を続く。
なのに。
「っ…」
扉の中に入った途端、迷わず進んでいた足が止まる。私の思考を無視して。
「どうした」
暗闇の奥から見えた赤い光が此方を睨んでいた。
「…!!!!!!!」
だが、それは絵画の中へと消えていく。
「気のせい…?ううん…ちがう…」
背後から馬の蹄の音。
照れずに彼と手でも繋いでいればよかった、なんて。
「うろこ!!!!!!!」
私の体は宙を舞い、彼が伸ばした手は空を切った。