第1章 第一章
「これから行く森の神殿について詳しく知っているか?」
会ったこともない女の子に対してほんの少しの罪悪感を抱き俯いていたが、彼はそんな私のことなど気にすることもなくそう尋ねた。
「ううん、全く」
私は素直に首を横にふる。
「ゼルダ…姫はなにも?」
「本当は一緒に旅をする調査団の人たちが教えてくれる予定だったから…実際、森の神殿へ向かって何をすればいいのか、全くわからない状態で」
私の話を聞きながら彼はパンをペロリと平らげてしまうと、手を舐め、伸びをする。そして私に視線を合わせるとゆっくりと話し始めた。
「ハイラルには各地に神殿があって、人が簡単に立ち入れないようになっている。それぞれの神殿を守る賢者がいて、神殿は守られながら眠るように存在するだけだった」
彼は私から視線を逸らさない。見つめているのが恥ずかしくて食べることに集中した。
「大魔王ガノンドロフ」
違和感があった。大盗賊、大悪党、そういった名前で罵られてるのは聞いてきたが、大魔王は聞いたことがない。
「奴の処刑の日に、賢者の一人が殺された」
「え!?」
「奴の最後の抵抗で殺されたんだ。その日から、均一されてきた神殿の結界が壊れ、異変が起き始めた」
現在、ゲルド族の長を名乗るナボールの協力のもと、砂漠にある処刑場にてガノンドロフの死刑が執行された。だが、それも名ばかりだったと彼はいう。
「奴はその手に力のトライフォースを持っていた」
「力の、トライフォースって…え!?」
「ああ、伝説のトライフォース、創生の三女神のうち力のディンの加護を得たってことだ」
目を点にさせた。聖地を乗っ取ろうとした大犯罪者がトライフォースに選ばれたってこと!?神様ってなんて意地悪なの…!…いや、でも…。
「トライフォースに選ばれたはずなら、知恵と勇気は、何処に…?」
私の疑問に彼は初めて視線を逸らした。そして、彼は私の質問には答えず、話を続ける。
「力のトライフォースに選ばれた奴を殺すことは誰もできなかった」
彼はその両の手を握りしめた。逸らした視線の先は青い空。
「ハイラルに古くから伝わる伝説。影の世界の話。賢者の1人を殺されたことに動揺した賢者たちは咄嗟にその世界へと封じたんだ」
封じた。それは完全なる死とは違う。
「そして、奴がまた戻ってくることを俺たちは知っている」