第1章 第一章
アツアツのホットミルクをコップになみなみと注ぎ
溶けたチーズはパンにこぼれ落ちそうなほどかけられた。
「うわぁ…!」
「熱いから気をつけて」
馬のときは何もいわなかったくせにここでは注告するんかい、とツッコミたくなったが、ぐーぐーと鳴る腹の虫がツッコんでないで食おうぜ!と叫んでいた。
「いただきます!」
ガッツクには熱くて、何度もフーフーしたが、思い切ってはふっとくわえたパンをそのまま口で千切って引き延ばす。何重にも糸を引くように伸びたチーズをこぼさぬよう必死になって食べている私。それを見て彼はまた笑っている。
しかし、彼の視線など気にしている余裕はなかった。このチーズ、お酒のツマミとして食べることが多かったけれど、溶かしてパンにかけても美味しいだなんて…と頭を抱えそう。チーズ独特の臭みは無く、後味がサッパリしている。クセがなく食べやすい、というのがハッキリとした感想だ。
チーズが海を渡るには、何日も熟成させたいわゆるハードタイプと呼ばれる物が多い。そういった物は味や匂いに独特の風味が混ざる、クセの強いチーズなのだが、この家のチーズは違う。
マーロンに牧場がないわけではないので似たようなものを食べることはあったが、やはり自然豊かなハイラルのチーズにマーロンごときが敵うわけがない。
私はもぐもぐと一生懸命口を動かして堪能する。パン自体も日持ちするもののようだが、硬すぎず柔らかな食感と皮のパリパリ感がとてもチーズに合う。このパンもハイラル産だろうか…日持ちするならマーロンに帰るときに買って帰ろうかな…なんて思っていたときだ。
「リスみたい」
「っぅぐっ」
此方を見ていた彼がそう呟いたのだから、口の中のチーズとパンが全部飛び出すところだった。慌てて飲み込んだので私は盛大に咳き込む。
「え、あ、大丈夫?」
彼が慌てて渡したホットミルクを勢いよく飲もうとする。
「あっっっっつ!!!!!」
鍋で煮たそれはまだ冷めてはいなかった。
彼が急いで冷たいままのシャトー・ロマーニを瓶から別のコップに注ぎ、私に差し出す。私はそれを勢いよく飲み干して、喉の中で暴れていたチーズとパンを胃の中に押し込めた。
「死ぬかと思った…」
「ごめん、まさかリスみたいって言っただけでそうなるとは…」
「いえ、あの、ごめんなさい」
「可愛くて、つい、言っちゃったんだ」
「…へ…」