第7章 ②心が迷うたび、君の元へ。/天窓【月島】
繋がれた手は、もう二度と離さないと言われている気がした。
扉を背に、月島さんが普段暮らす明治の兵舎部屋の奥へと足を踏み入れる。
使い込まれた古い木の匂い。
もう何度も来ている場所。
お互いぽつりぽつりと雑談をして、時には夕飯を食べ、お茶を飲んだら帰るのだ。
「……こちらへ」
絡めた手を引かれ、導かれるように簡素なベッドへと誘われる。
「立ったまま話す必要もないだろう。……それに、少し休むといい。」
相変わらずの素っ気ない言い方。
だけど、繋いだ指先に込められた力は、言葉よりもずっと雄弁に彼の本音を物語っている。
いつもは椅子だけれど、ベッドに促されるなんて珍しい。
私、そんなに疲れた顔をしていたのかな。
その優しさに甘えて、素直に布団の上へ腰を下ろす。
二人で並んで腰掛けてふと顔を上げると、視線の先に新しい発見があった。
「……あ」
「どうした?」
私は天井にある小さな天窓を指差した。
そこから覗いているのは、現代の街ではなかなかお目にかかれない、深く暗く澄み切った夜空だ。
「流れ星……!」
思わず顔がぱっと明るくなる。
「すごい……いっぱい見える」
感動のあまり、そのまま布団の上へごろんと横になった。
「……」
月島さんが一瞬、言葉を失うように固まる。
「月島さんも、横になって下さい!」
「……横に?」
「はい。その方がよく見えますよ」
躊躇っていたのも束の間、月島さんも私の隣にゆっくりと横になった。
すぐ隣で肩と肩が触れ合う。
けれど私はそんな密着具合にドキドキしながらも、それ以上に目の前の景色に夢中になっていた。
目を輝かせたまま、天窓の夜空を見上げる。
「綺麗……」
「……」
「こんなにたくさんの星、見えるんですね」
「……ああ」
月島さんも一緒に天窓を見上げる。
不意に隣に視線を向けると、至近距離の彼と目が合い、慌てて星空に向き直る。
「み、見てください、あそこ。あの三つ並んでるやつ」
「……はい」
「あれ、昔学校で習いました。確か……あれ、何だったけ、ど忘れしました。」
「……俺もだ」
そう言う月島さんは、何度も私の横顔へと視線が戻っている気がする。
チラッと再び横目で見れば、彼は複雑な表情で見つめていた。