第10章 意識し始めた頃
「……アイツ、ずっと“あぁ”なんか」
「みたいだねぇ……」
クマラの意識が戻らないまま本部に帰還すると、クザンは必死な表情でクマラを抱えて医務室に駆け込んだ。ただ意識を失っているだけで、負った傷も奇跡的な回復力でもう塞がっていると知らされて尚、クザンは暇さえあればクマラの眠る医務室へ足を運んでいる
それを見守るサカズキ達は、海に落ちて溺れるのはよくある事だと思いつつも、心配をしていない訳ではない。誰しも、尊敬して、密かに想いを寄せている人が危険な目に合えば心配の一つや二つするものなのだから
「……ごめん、ごめんなさい……クマラさん……」
クザンは一人、眠り続けるクマラの手を握り謝罪の言葉を連ねていく。クザンにしか聞こえない声でブツブツと言うその瞳に、光はない
帽子を取っていても、初めてのクマラの顔を見ても、それを認識出来ないほどクザンは自身を責めて、傷つけていた。自分があの時実を食べなければ、いやそもそも、見つけてなんていなければ。彼を自分の手であの時、すぐにでも助け出せたのに……と
一人自分を追い込んでいくクザンに対してか、ピクリとクマラの手が反応を示す。両手でその手を握っていたクザンは勢いよく顔を上げ、クマラがちゃんと戻ったのかを確認するべくジッとクマラの目元を見た
「……なんだ、そんなに俺の顔が珍しいか」
「!クマラさんっ!」
「うえっ」
パチッと目を開けたクマラは、すぐ近くにいて自分を見つめていたクザンに疑問を投げかける。目を開けて、ちゃんと喋っていることがそんなにも嬉しいのか、クザンは勢い余ってクマラに抱きつく形でダイブした
突然の重圧に手をじたばたさせクマラだが、先程まで見守っていたサカズキ達は仕事に戻った。クザンもそろそろ戻らなければならないのだが、目の前で息をして目を開けて、自分に話しかけてくれるのが余程嬉しいのだろう。全くそのことに気づいていない
(クマラさんが生きてる、良かった……ちゃんと、ちゃんと生きてる。動いてる。あったかい)
クマラの身体を抱擁しつつ、クザンは自身の頬をクマラの頬に擦り寄らせた。クマラはそれに片眉を上げつつ、心配をかけたなと抱き締め返す