イナズマイレブン-狼たちは狂犬を愛し喰う-オリオンの刻印
第1章 -
「ま、まずいな・・・」
「そこまで考えてなかった・・・」
「とにかく今は一番、獣都に懐かれているヒロトに任せておくのがいいだろう。」
しかし吉良一人で制御できる程、獣都は簡単にできていない。
なんたって彼女は“狂犬”なのだから。
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「チッ、梅の奴どこ行きやがったんだよ・・・」
吉良が施設内を探し回るも、獣都の姿はどこにも見当たらなかった。
元々他人と群れることを嫌う獣都は、どこかのらりくらりとしており、一定の場所に留まることはない。そのため獣都を見つけるのは、かなり至難の業。動き回るだけ無駄だ。それでも吉良は、獣都を探すことをやめようとしなかった。
「ヒロトさん、こんなところで何をしているんですか?」
突然声をかけられた吉良は、肩をビクリと揺らした。声がした方を振り向けば、そこには吉良を不思議そうに見つめる一星充が立っていた。
「あぁ、一星か・・・お前、梅のこと見なかったか?」
吉良は一星に獣都を見かけなかったかどうか尋ねた。しかしやはり一星も獣都のことを見ていないようで、一星は申し訳なさそうに「いえ、見てません。」と答えた。
「そうか・・・もし見かけたら俺が探してたって言っといてくれ。」
「分かりました!」
それからまた、吉良は獣都を探し始めた。
「まさかあの犬があいつに懐くとは・・・」
吉良の姿が完全に見えなくなった頃、一星は静かにそう呟いた。
「趙金雲・・・あいつさえ邪魔をしなければ、あの犬はこちら側についていたというのに・・・どいつもこいつも邪魔ばかりしやがって・・・クソッ!」
一星は歯をギリッと鳴らすと、壁に自身の拳をドンッと打ちつけた。その姿はいつもの一星からは全く想像がつかないほど、別人のようであった。
(こうなったら、まずはあの犬から消すか・・・どの道、あの犬はもう用済みだ。残しておいたところで邪魔になるだけ・・・だったら早いうちに消してしまおう。その方がこちらも動きやすい。)
徐々に動き出す闇。その闇は今まさに、獣都へと迫っていた。しかしそんなことを知りもしない獣都は、呑気に芝生の上で寝そべっているのだった。