第1章 手に取ったのは
できる限りの事はしておくに越したことはない。部屋を照らしていたロウソクを持って、掃除する時くらいしか入らない母さんの部屋に行く。真っ直ぐ部屋の奥の押し入れまで歩き、襖を引いた。そういえば掃除の時、ここはいつも牡丹姉さんがしていたから見たことがなかった。今思えば、隠し部屋のことを知られないようにしていたからなんだろうか。押し入れの中は、上の段は布団が入っていて、下の段には着物が入った葛籠と、恐らく桐でできた細長い箱があった。やけにその箱が気になったのだが、それより先に床板を確認する。小さなツマミが付いていて、それを上に引っ張ると床が持ち上がり板のあった場所には空間が現れた。ロウソクの灯りを照らしながら中を覗き込むと、そのまま家の床下に続いているらしい。隠し部屋、と言うよりは脱出経路みたいだ。確かに家に何かが入ってきたとしても床下に逃げ込んだとはあまり考えないのだろう。外に出られる前にここを使って逃げればいいのだ。竹林にさえ入ってしまえば、そうそう見つかることもないだろう。
「おい八重、」
開けた床板を戻していると、後ろから椿に呼ばれて振り返る。静かだと思っていたら、どうやら例の細い箱を開けていたらしい。私も気になっていたから開けたことについては咎める気は無い。椿がこれ、と箱の中を指さすので中を見れば、そこには刀が一本と、私たち宛の手紙が入っていた。なんで、いつ、誰が。様々な疑問が頭の中を駆け巡っている中、椿はその手紙を手に取って開いてしまう。私も慌ててそれを覗き込んだ。手紙は、母さんからだった。