第1章 手に取ったのは
「春子姉さん…いないの…?」
「日が沈んだから大丈夫って、あんた達の出迎え行ったきりなんだよ…」
「そんな、どうしよう…なんだか外の様子もすごく変なの、春子姉さんになにかあったら…」
「俺、その辺見てくるよ!」
外でもし倒れたりしていたら、と出ようとした椿について行こうとしたのだが、牡丹姉さんに止められる。
「あたしが見てくるから。外に出たら戸を閉めて、あかないように衝立してちょうだい」
「えっ、でも…」
春子姉さんが帰ってきたらどうするの?
そう聞きたいのに牡丹姉さんは続ける。
「絶対あたしが声をかけるまでは戸を開けるんじゃないよ?もし戸が壊されそうになったり危険だと判断したら姉さんの…あんた達の母さんの部屋に隠し部屋があるからそこへ行って」
「隠し部屋…?」
「押し入れの床下だからね。いいね、絶対だよ」
私たちが止めるのも聞かないで、牡丹姉さんは外に行ってしまった。どうしよう、姉さんが帰ってくるかもしれない、でも本当にクマとか、イノシシとか、獣がいるなら戸を開けたままも良くないし…。言われた通りに衝立をする。そのまま戸の近くに居るのも怖くて、椿の腕を引いて部屋の隅へ。
「…母さんの部屋に、隠し部屋があるなんて知らなかった」
「父さんも言ってなかったしな。押し入れの床下なんて、そんな確認するものでもねぇし」
牡丹姉さん大丈夫かな、とか春子姉さん帰ってくるかなとか、そんな話は出来なかった。帰ってこなかったら、戻って来なかったらどうしようって不安になってしまうから。
「…なにかあったら入れるように、押し入れのなかのもの、出した方がいいのかな」
「なにかってなんだよ」
「わかんないよ…わかんないけど…」
そのなにかは、絶対に起こって欲しくないことだけど。