第1章 手に取ったのは
少しゆっくりしすぎてしまって、家の近くまで来た頃にはもう日は沈んでいた。月明かりの照らす竹林を2人で歩きながら次に町に行けるのはいつだろうね、とか、夕飯なんだろう、と話していたのだが違和感に気づく。それは椿もだったようでくるりと辺りを見回した。特に変わった様子はない…それでも…静かすぎる。秋の虫の鳴き声がしない。いつもならもうしてるはずなのに。風ひとつ吹いていないなんて。ちりちりと頭の奥が炙られてるような、痛い、おかしな感覚。
「なんだろう…すごく、気持ち悪い…」
「でっかい獣でも来たのか…?」
「…姉さんたちが心配だよ、早く帰ろう」
もし椿の言う通りだとしたら立ち止まっているのも良くないし、姉さんたちに危険が迫っているのかもしれない。急いで知らせなきゃ…!そこからは家まで全速力で駆けた。ぐんぐん景色が進んで、あっという間に家が見える。窓から漏れるぼんやりとしたあかりを見て、少しほっとする。
「姉さん、ただいま!」
戸を開けて声をかけると、真っ青な顔をした牡丹姉さんが出迎えた。
「八重、椿、あんた達春子と会わなかったかい?」
家の中の様子からして、いる気配はないしすれ違ってもないので椿と顔を見合わせてから首を横に振る。