第1章 手に取ったのは
「この町の傘屋はうちなんだ!うちの店に卸すか、そうでなきゃ上納金を寄越せと言っているだろう!」
あまり売れないうちは何も言わなかったくせに、最近になって私たちを見つけては目ざとく金を払えと押しかけて来るのだ。別に新しく店を開いているわけでも、傘屋より儲けているわけでもないのでほっといてくれればいいのに。
「ちょっとくらい見逃してくださいよ旦那!あんたの言う、名もない職人の傘なんだから!」
「見逃せるかい!今日という今日は今までの分もきっちり払って貰うからな!」
素早く撤収の用意をしながらお願いしてみるがもちろんそれは叶わず。捕まえようとしてきたのでその手をひらりとかわして背後の路地に逃げ込んだ。私たち子どもがぎりぎり壁に擦ることなく通れる道だ、追ってこようとする大人は走れるわけが無い。引っかかりながら邪魔だの早く行けだの喚いている追っ手から遠ざかり、そのまま裏道へ。あのまま諦めてくれるわけでもなさそうなので、使ってそのままにされている荷車と木箱を登って屋根の上へ。そっと下を覗き込んで様子を伺っていると、ようやく通り抜けたらしい3人が辺りを見回して、諦めたのか別方向に歩いていった。すぐ降りるのも怖いし、しばらく待つついでに今日の売上のと買って帰るものの確認。
「糊と、ハケと、米と…あとなにかお菓子買おうよ、姉さんたち好きだもん」
「そう言ってお前が食いたいだけだろ」
「椿だって食べたいくせに!」
「そりゃそうだ」
2人で顔を見合わせて笑って、そろそろいいだろうと屋根から降りる。同じところを通るのはちょっと心配なので、別のところから表の通りへ戻り、予定通りの買い出しをして帰路に着いた。