• テキストサイズ

【鬼滅の刃】雪は春を知れるのか【不死川実弥】

第1章 手に取ったのは


「この丈夫な傘、皆様にお買い上げ頂きたいのはやまやまですが!如何せん数に限りがございます!代わりと言ってはなんですが、お売りする前に我が兄の演舞ご覧に入れましょう!」
三味線を掻き鳴らし、それにあわせて椿が踊る。体をしならせて、回る。高く飛んだかと思うと空中で一回転して着地。観客からわぁっと声が上がる。椿の一通りの動きを見せたところで、今度は私が歌いたす。
「これよりおきかせ致しまするは、とある娘の物語。悪鬼の親玉に親を殺され、復讐に旅だった少女剣士の物語」
母さんが、私たちの寝る前にとよく聞かせてくれていたものだ。少女の旅の話を、いくつもいくつもしてくれて、自分も歌いたいと三味線と共に教えてもらった。そして、この話に出てくる主人公みたいに強くなりたいと2人揃って刀の稽古までして。そのおかげでこの演舞が成り立っているわけだけれど。椿は舞いながら色んな人に成る。鬼、少女、助けを求める村の人。そしていよいよ物語の盛り上がり鬼退治。手下の鬼と少女を代わる代わる鬼の面の付け外しで演じ、戦っているが如く模造刀を振るう。麻の葉柄の着物がふわりと椿を隠す度、鬼と少女が交互に現れる。話の大詰め、刀を構えとん、と地を蹴り、飛び上がった身体を捻ると空を切った。ひらり、と鬼の面が宙を舞い、地面に落ちる。手下を倒した少女が親玉を探しに旅立つ締めを歌いきり、物語は終わりへ。
「少女の旅はまだまだ続くのです、これから先の物語は、またいつか」
弾き終わると大きな拍手と歓声が上がった。さぁてここからが傘の売りどころ。
「長い前座にお付き合い頂きありがとうございます!さてこの傘、50銭の所を見ていただいた皆様にだけ、30銭でお譲り致しましょう!さぁ早い者勝ちですよ!」
立ち上がり傘かごを持って声を張りあげれば、私も俺もと手が上がる。見ている限り手の上がった順に渡していき、みるみる傘は売られていく。椿はその間、投げ込まれたおひねりの回収。そう、この方法なら傘の他にも収入があるし、わざと傘屋よりも安い値段で売っているので買い手も着きやすい。
「こらー!またお前らかー!」
最後の一本を渡したところで、人垣をかき分けていい着物を着た男と付き人らしい二人が前に出てくる。以前春子姉さんの傘を安く買い叩いた傘屋の旦那である。
/ 19ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp