第1章 手に取ったのは
相当鍛えられている立派な筋肉、背中にちらりと見えたとんでもなく大きな鉈のような刀が二本。昔、お祭りの屋台か何かで売られていた、木彫りの仏様を思い出す。一瞬ひょっとして、仏様が本当に私を裁きに来たのかと思ったがそんなはずは無い。
「この辺りで怪しいヤツ見なかったか?」
見上げたまま固まっていると、そう訊ねられる。どちらかと言えばこんな変な所までやってきているこの人が怪しいヤツ、なわけだけど。
「見てないです」
この人が泥棒だとしても、うちの中には盗まれて困るようなものなんてない。それより一人で待っているの椿方が心配だ。短い返事をして、そのまま走り出す。呼吸を使っているのだから、どうせ追いつくはずもない。元の所へ戻れば、椿は春子姉さんの着物や羽織で牡丹姉さんの亡骸を包んだ後だった。
「椿、家のとこに知らない人がいたんだけど、」
「こんな夜更けに埋葬か?」
椿に声をかけた直後、ついさっき聞いたばかりの声がまた後ろからした。振り返れば、やっぱりさっきの大男で。ひ、と小さな悲鳴をあげてしまって、慌てて椿の隣に行く。椿は椿で、さっきの刀を怪我していない方の手で握り男に向けていた。並大抵の人じゃ追いつけないはずの速さで走ったはずなのに。どうしてここに?
「待て待て、俺は怪しいヤツじゃねぇよ」
「こんな時間にここまで来るのは怪しいヤツだけなんだよ!」
もう正直これ以上のことは起こって欲しくない。姉さんが一人死んで、もう一人は鬼になって私が殺して。そもそも鬼、なんてお話の中でしか出てこないと思っていたのに。…ここまでくると、逆に泥棒とかだと現実味があるような気もしてくる。目の前の大男はと言うと、ちらりと刀に見た後にこちらを見て。
「それ…日輪刀だな?」
聞きなれない名前で指されて、二人で顔を見合わせる。母さんの手紙には鬼を倒す特別な刀と書いてあった。それが日輪刀、ということなのだろうか?詳しく聞きたいけれど、この人のことをまだ信用出来ない。
「…知らない」
これがその日輪刀かはわからないので嘘は言っていない。
「お前ら鬼殺隊か?」
「言わない」
「…なるほど…」
はっきり答えは言っていないはずなのに、男はうんうんと何故か納得したように頷いて。
「鬼を探してると言えばわかるか?」