第1章 手に取ったのは
「ねえさ…春子姉さん…」
抜け殻のように残った着物を掻き抱く。死んでしまった。骨も残さずいなくなってしまった。どうして、誰がこんなことを?…そんなの決まっている。
「…私が、私が春子姉さんを…」
私が首を落としたから。椿と一緒にいることを選んだから。
「私が、殺しちゃった…」
そう口にした途端、かぁっと喉が奥から熱くなって、苦しくなって。嗚咽が漏れる。視界がぼやけてよく見えない。
「八重、お前は悪くない、お前のせいじゃないって」
椿が抱きしめて声をかけてくれても、受け入れられなかった。もしかすると呼びかけ続ければ、姉さんは首を落とさなくても正気に戻ったのかもしれない。殺してしまうことになるんだったら、私が死ねば良かったのかもしれない。抱きしめられてる腕の中で、椿の心臓の音が聞こえてきたけれど自分たちが生き残ってしまった、という現実が突きつけられているようで。余計に虚しくなるだけだった。
声を上げて泣いて、泣いて。涙も嗚咽も出なくなった頃、私はどうなるのだろうかと考える。警官の人に話せばいいのか、そもそも死体も消えてしまったのに私が殺したということは証明できるのだろうか?誰が、私を裁いてくれるのだろうか。
「…牡丹姉さん、あのままにしておいたら、獣に食われちまうから。埋めようか」
「…うん」
言われるまま、よろよろと立ち上がる。牡丹姉さんの所まで行き、最初は家まで連れていこうかと思ったけれど、運んでいけそうもなかった。ここに埋葬するしかない。
「鋤、取ってくる」
手掘りでは限界があるからと取りに行こうとすると、椿が着いてこようとした。しっかり私の手まで握って。私が何かよからぬ事をするんじゃないかと心配らしい。
「椿はここいて。2人とも離れたら、それこそ獣に荒らされるかも」
「本当に、取ってくるだけだな?」
「大丈夫だよ、だって牡丹姉さんこのままに出来ないもん」
ね?と語りかけながら優しく握られた手を解いて家に向かって走って戻る。もともと筍を掘るようにと用意していた鋤を持って戻ろうとすると、
「おい、」
後ろから声を掛けられた。男の人の声だ。野盗?泥棒?いろいろ嫌なものが浮かびながら恐る恐る振り返ると、六尺はあろう大男が私を見下ろしていた。