第1章 手に取ったのは
月明かりに照らされ刃が白く光る。椿の拳を吐き出したと同時に、真っ直ぐな一太刀が春子姉さんの首を刎ねた。ころりと呆気なく椿の頭上へ落ちる首。主を失った身体が、今度はそのまま首絞めへと行動を移そうとしたけれど体当たりで飛ばした。首を落としたとはいえ、まだ安心している場合ではない。落ちた首は目を見開いて月を見上げ、椿を見て私を見て…少し離れたところの牡丹姉さんを見て。くしゃりと顔を歪めた。先程までの本能に従うままの獣とは違う、人間じみた顔。やっぱり、首を落とせば元に戻るの…?ちょっと期待を持ったのもつかの間、今度は花が少しづつ散るかのように姉さんの頭と身体が崩れ始めた。
「春子姉さん!」
椿が崩れていく姉さんの頭を抱き上げる。私も刀を地面に捨ておいて駆け寄り、姉さんの顔を覗き込む。ポロポロと涙をこぼす春子姉さん。
「八重、椿…私、私…」
私と椿を呼んで、途切れ途切れに話出した。
「私、逆らえなかった…病気だし、二人と牡丹姉さんを残して逝きたくなかったから…だから、受け入れてしまったの…!」
主語がハッキリしないのだけれど姉さんが誰かと話した結果鬼になったということなんだろうか…。誰なの、誰に逆らえなかったの、ときいてもその事については話してくれない。
「でも、あの瞬間からお腹がすいてどうしようもなくなって…気づいたら私…ほんとに、ほんとにごめんなさい…!二人にも酷いことさせてしまったわ…!」
椿の腕の中でもう顔が半分しか残っていない姉さんが泣き続ける。そした、このまま姉さんは消えてしまうんだと悟った。首を落とせば元通り、なんて都合のいい話はないのだ。姉さんの身体がふらふらと立ち上がりこちらに歩いてくる。私たちの前に膝をつくと、そっと頭を撫でた。
「ごめんね、八重、椿…」
そういったきり、姉さんは目を閉じて。あっという間に身体も頭も崩れ落ちて消えてしまった。姉さんの着物や髪留めだけが、そこに残るだけだった。