• テキストサイズ

【鬼滅の刃】雪は春を知れるのか【不死川実弥】

第1章 手に取ったのは


爪の先で引っ掻くような音に一度はドキリとしたものの、ひょっとして姉さんが驚かそうとしているのかと思ってしまう。こちらを襲うとしている何かだとするなら、あまりに弱々しすぎる。ちらりと椿を見ると、まだ警戒している様だった。私の口からも手を避けてくれない。私の視線に気づいたのかこちらを見ると、そのまま押し入れの隠し部屋の方に視線を向けた。逃げるぞ、と促しているらしい。そんなに慌てることだろうかと思っていたのだがカリカリと弱い音は、次第に力強くなり始めていた。ガリガリガリ、怒っているかのような音。そしてドン、と強く戸が叩かれ始める。異常だと、そこでやっと気がついた。刀を持って、押し入れ床のツマミを引っ張りあげる。静かに開いたそこに一人ずつそっと入り床板を元に戻す。四つ這いになり椿の後ろに着いてそろりそろりと玄関とは反対方向に向かって進む。変わらず戸を叩く音はやまない。ということは私たちがここにいるのも気づかれていない。どうか気づきませんように、と祈りながら床下を抜け、すぐ近くの竹林に入る。震える手で椿の手を握り少し離れた所まで離れてからやっと一呼吸。離れてしまったので家からの音は聞こえない。でも追ってきていそうな気配はしていなかった。
「これからどうするの…?」
気配はしないけど怖くてつい小声になる。
「町とは反対方向に山があって、そこに、猟師のおっさん住んでたろ…?そこに行って、助け呼ぶしかないだろ…」
たまに山でとれた山菜とか、お肉とかを分けてくれていた猟師のおじさん。困ったことがあったらいつでも来いって言ってくれていたけど、起きているだろうか…。そもそも本当に獣なのだろうか?人の、爪先で引っ掻いているような音だったのに。それでも獣ではないという確証もないし、頼れる大人がいる訳でもないので山の方に向かって歩き出す。静かな竹林が、知らない場所のようで怖かった。月明かりに照らされているものの、影になって暗いところは何かが潜んでいそうで椿にしがみつきながら過ぎるしか無かった。さっと弱い風か吹いて笹の葉が鳴る。つい立ち止まって辺りを見回すと視界の端に何か、見慣れた物が映った。
よく見ればそれは、牡丹姉さんの着物だった。
/ 19ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp