第1章 無遠慮な神様
産んでくれたのだから、育ててくれたのだから。
何度も心の中でそう唱えた。
そう、頑張ってみたけど駄目だった。
家族だって思えなかった。気持ちが悪かった。
どうあがいても知らない人にしか思えない。
父はそれに気づいて、すぐ私をただの門下生と同じように扱った。
強くなって一人で生きていけと言われた。
母は気づかないふりをして歪な家族を演じて、やがて壊れてしまった。
家の中をめちゃくちゃにしては、色んな物をいっしょくたに庭で燃やしていた。
そして、鬼が来た。
母が燃やした物の中に藤の香炉があったらしい。
真っ先に母が殺された。
私は知らずに道場で父を待っていた。
中々来ないから探しに行くと、私と同じ背丈の子供が父と向き合っていた。
「お父さん」
こちらに背を向けていた子供が甘ったるい声で父に向かってそう言った。
相対していた父が固まって、次の瞬間濃い血の臭いがして父の大きな身体が崩れ落ちた。
背後にいる私に気づいたその子供はゆっくりと振り返る。
父の返り血に染まって嬉しげに笑っていたそいつは、私と同じ顔をしていた。
「にげろ、それは、鬼だ」
今にも事切れそうなか細い声が聞こえて。
気が付けば、道場の隅に置かれた、父が幼い息子に贈った刀を手に取っていた。
私のものではないと手に取れずにいたのに、不思議と手に馴染んだ。
何度も腕を斬って足を斬って首を斬って。
繰り返し再生した傍から斬っていると、やがて朝が来た。
今まで死ななかった鬼が死んだ。
庭に墓を掘って父と母を埋めた。
少し考えてその横に小さな墓を掘った。
私という自我が塗り潰してしまったこの人達の本当の子供の墓を。
それから刀と金子と少しの着替えを持って家を出た。
一度も振り返らなかった。