第4章 幻夢
出陣した夜、眠りにつくと夢を見た。
本丸の庭には何故か枯れることを忘れ、ずっと咲き誇る藤の木があり、立派な藤棚を作っている。そこに長谷部は立っていた。
「(は…べ……)」
誰かが自分の名を呼んでいる。主かと思い振り向くも誰もいない。
よく耳を澄ますと、聞こえてきた声は自分の声だと気づいた。
自分が自分を呼んでいる。
長谷部「何だ」
姿のない自分の声に声をかける。
「(たの…む……た……)」
微かな声に必死に耳を傾ける。何を頼むのだ…?
強い風が吹き荒れた。淫らに藤の花が揺れる。
そして気づいた。藤の原木に主がいる。
俺に微笑んでいる。優しく、目に光がある。
長谷部「(あの表情が…本物…?)」
ふと、手を伸ばすと、何かが自分にのしかかった。
長谷部「わあああ!?!!」
飛び起きそうな勢いで目が覚めた。いや、飛び起きようとしたが何かが体の上に乗っかっている。
「あ、起きた。珍しく起きないから俺っちが起こしに来てやったぜ」
長谷部の上でニカニカと笑う。
長谷部「…薬研藤四郎…」
薬研「まさかのフルネーム呼びか。起きてるか長谷部の旦那??」
長谷部「…もっと起こし方があるだろ…」
薬研「乗った方が手っ取り早いと思ってな。ほら早く起きて、朝餉済ましたら今日は俺っちと馬当番だぜ」
長谷部「出陣…」
薬研「今日はなしだ。そら、早く」
長谷部の上からどいたと思ったら、布団を取られてしまった。
起きなくては。