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君じゃないのに/財前裏

第1章 1#


「!どうしたんそのノートたち」

あれから数日後。ダンボールにノートを入れ抱えながら廊下を歩いていると謙也から声が掛かる。

『あー…先生が…』

彼の方を見られなくなっている内に手元が軽くなった。

『あっごめん…大丈夫だから!』

「ヨタヨタ歩いててよー言うわ。任しとき」

彼の屈託のない優しい笑顔が好きだ。胸の中が破裂しそうな程。

『…ありがとう…』

真っ赤な頬で下を向く彼女に謙也の方は怪訝そうな目を向ける。

「どうしたん?熱でもあるん?」

『え?』

「赤いで?」

額に触れてくる大きな手に更に熱くなる。

『そう…かも…保健室行ってくる!』

逃げるように近くの階段を降りてしまった。
ちゃんとお礼も言えてない。

「なんやあいつ…?」

そんな様子に気付きもしない鈍感な彼は教室へ歩いていった。



とりあえず保健室へ行くと伝えた以上嘘だと思われるわけにいかず本当に来ている。

「…確かに熱ね…」

『あっえ…?』

「早退する?休む?」

37.5度の体温計を目の当たりにし体温計まで壊してしまったかと思う。早退する理由はないのでベッドを借りることにした。

「時間になったら呼びに来るから寝ててね」

潜りながらもぐるぐると考える。何であんな事をしてしまったのだろう。それも人に見られて。これまで普通に話せてたのに今では顔を見ることすら出来なくなってしまった。
もう素直に伝えて楽になりたい。ただ苦しさを味わう中静かに目を閉じた。



1時間休んだ中クラスへ戻ると、謙也が駆け寄ってきた。

「大丈夫か?」

『大丈夫!ごめんびっくりしたよね?ノートもありがとう』

良かった。ちょっと休めば話せるようになった。

「あんま無理せんとな」

彼は、自分をどう思うだろうか。自分で私をどう思う?なんて聞けるはずもない。




「…何でそれが俺になるんすか…」

『い、いつでも呼んでって言ってくれたから…』

「ハァ…そういう意味違う」

呆れたと額を痛そうに抑える財前。

「つか俺のことは意識してくれんのですか?」

『しないわけないけど…』

自身の全てを知られたと言ってもいい程の相手だ。乱された姿を知られていて気まずさはある。

「は…アンタなんか勘違いしてますやろ」

『ぇ…』




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