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淡雪に燃ゆる想いを【鬼滅の刃】

第1章 淡雪に燃ゆる想いを


陽が山の奥に沈む頃、あたしは薄暗い橋の上で穏やかに流れる川を眺めていた。炭治郎と別れてから幾刻経ったのだろう。様々なことを考える内に暗い場所へ、知らない所まで来てしまった。今日はもう疲れた。
鬼になってからか、人間達の声が大きく聞こえるようになった気がする。人間の頃には気にならなかった街の喧騒や、小さな会話などが細やかに聞こえるのだ。そして外に並ぶ電灯がやけに眩しい。些細だが、確実にあたしは鬼になっている。

「お前、なんだが不思議な匂いがするな」

それは何の前触れもなく突然聞こえた声。ヒュンと背中が冷たくなって、振り向く前にこちらを覗き込んできた声の主と目が合う。吊り上がった瞳に尖った牙、肌の色は普通ではあり得ない凍りついたような薄い灰色。異様な見た目だったから直ぐに鬼だと分かった。

「鬼か?…いや人間?」

その鬼は見た目だけではあたしがどちらなのか判断出来ないのか、至近距離であたしの匂いを嗅ぐ。鬼が側に来ると、ツンと生臭い匂いが鼻をついた。血肉の臭いだ。思わず顔をしかめたあたしだが、鬼は構うことなく独り言を話してる。

「まさか稀血なのか、そうなのか」

「まれち?」

「お前が稀血。それなら喰うまでだ」

「食うって……あたしはおに、」

鬼の言葉を訂正しようとした瞬間、突如みぞおちの辺りに激痛が走った。

「ぎゃあ!!」

それは言葉では表現出来ない程の痛みで、あたしはお腹を押さえて前屈みになる。地面には目を覆いたくなるぐらい大量の鮮血が飛んだ。
そしてこんな時にも関わらず、喉から出た自分の悲鳴が人間のものではないことに幻滅する。獣と悪魔を混ぜたような聴くに耐えない声だった。

「う"ううう!!痛いぃい!!!!」

あまりの激痛に後退りしたあたしはグッと歯を食いしばる。腹を押さえる指に、ぬるりと触れる血の感触。考えたら頭がクラクラしてきた、気色が悪い。

「死なないだと、しぶとい奴だな」

そう言って、手を振り上げる鬼。月の光に反射して鬼の長い爪が光る。
死んだと思った。死んだのにまた死ぬって、よく分からない。分からないが、こんな雑魚みたいな鬼に殺されるなんて笑えない。まだ死にたくない。死にたくない!!死にたくない!!!

だって炭治郎との約束を守れない。
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