第1章 淡雪に燃ゆる想いを
◇
生ぬるい風が頰を撫でた。淡いピンクの髪の毛が揺れている。地面に広がる大量の赤色に、あたしは思考を停止させた。
「…………………え」
気がつけば、何故か家の前に立っていた。さっきまで童磨の館にいたはず。だがここは少し前に尋ねたあたしの家だ。あたしはいつの間にここに来たのだ。
だがここは家なのに、まるで家ではないみたいで、それはもう奇妙な感覚に襲われた。
玄関先には家族であるお兄ちゃんとお父さんがうつ伏せで寝そべっていて、その周囲には真っ赤な血痕が異様な程に垂れ流しになっている。白黒の絵に赤だけが点々と描かれたような、惨憺(さんたん)たる光景だった。
「………なにこれ」
凄まじい鉛の匂いに心臓が鋭く波打った。血の気が引き、指の先が冷たくなっていく感覚がする。あたしは直感的に、二人がもう死んでいることを知っていた。
口内に違和感を感じて、自分の歯を舌でなぞる。尖ってない正しく整列し生え揃ってる。身体も少し重くて、手足は非力な感じがした。
「あたし、鬼じゃない………?」
ふと気付くと、ピンク色の髪をした男が家の前に立っている。
「まだ生き残りがいたか」
あたしの気配に今気付いたかのように、首だけでこちらを見た男。右手を血の色で真っ赤に染めたその男の顔には、刺青のような青い筋のようなものが沢山並ぶ。その奇妙な風貌(ふうぼう)血の色ときつい悪臭にゾッとした。
だがあたしは知ってる、この男を。絶対に知ってる。でも名前が分からない。これ誰だろう、誰だっけ。誰だ。
「だれ?」
そう尋ねると男はニヤリと微笑み、ゆっくりと口を開いた。そして何かを言う。そこだけ聞こえない。もう一度、と言いかけた時あたしはバチっ!という音と共に目を覚ました。