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淡雪に燃ゆる想いを【鬼滅の刃】

第1章 淡雪に燃ゆる想いを


「俺は竈門炭治郎。でもお礼は要らないから、それじゃあ」

さようならと小さく会釈した彼の、耳たぶにある耳飾りがチラリと揺れる。それは花札のような不思議な耳飾りだった。男の人なのに可愛いの着けてる、そう思った瞬間、ドッと脳味噌に流れ込む無惨様の台詞。

『花札のような耳飾り』

あの日の無惨様の言葉、あれはこの彼の事だ。どうしようこんな所で出会ってしまった。だが彼をどうすればいい、続きが思い出せない。呼び止める言葉も思いつかない。その間にも遠くなっていく背中。慌てたあたしは勢いで口を開いた。

「明日のお昼!」

咄嗟に出た言葉は、再び会うために思いついた約束の時間だった。立ち止まった炭治郎がこちらを振り向く。少しばかり驚いた顔をしている彼。

「やっぱりこのままだと気持ち悪いし、何かお返しがしたいの。また会えませんか?」

「いや、本当に何かを返してもらおうと思ってやった訳じゃないんだ」

「でもこのままだとあたしがモヤモヤしたまま帰ることになります。だからお願い!」

「…………」

即答しない彼は、やはり困った顔をしている。どうにか呼び止めたいあたしは「明日の午後3時またここで」とまたもや勢いで言葉を発する。

「無理にとは言わない。縁があると思ったなら来てくれればいい」

ここまで、人に何かを強くお願いしたことなんてなかった。今まで相手に何も望んで無かったし、他人から何かを求めるのなんてバカらしいと思ってた。だけどあたしは何故か必死になってる。必死で、彼との繋がりを探してる。
炭治郎はううんと唸りながら悩んだ後、根負けしたように顔を上げる。

「分かりました、約束したのなら必ず来ます。あなたの名前は?」

「花子。待ってます」

あたしの名前を聞いた炭治郎は頷く。そしてまたお辞儀をして、今度こそ彼は行ってしまった。
その場に立ち尽くすあたしは小さくなっていく炭治郎をぼうっと眺める。そして一気に切なくなった。

「"鬼狩りの首を…"」

今、無惨様の言葉の全貌を思い出したのだ。首を持ってこいと、それはつまり彼を殺すということか。心がグッと握り潰されるように痛くなった。あんなに心の綺麗な人間を、殺してはいけない。あたしは両手で顔を覆う。
何か大きく間違った選択をしてしまったかもしれないと思った。
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