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淡雪に燃ゆる想いを【鬼滅の刃】

第1章 淡雪に燃ゆる想いを


「ご馳走様でした」

空になった皿を前に、パン!と手を合掌したあたし。久しぶりに食べた気がする団子は特に美味しく感じた。猗窩座もこれば良かったのにと思いつつも、席を立ちお勘定をしようと店の出入り口に向かう。

「ありがとうございます」

愛想の良い団子屋のお姉さんがあたしに微笑んだ。笑顔を返したあたしは着物の懐に手を入れ、その瞬間キンと凍り付く。

「…………」

笑顔のままその場で停止するあたし。突然動かなくなったからか、お姉さんは不思議そうな顔をしてこちらを見ている。

「お客様、如何なさいましたか?」

「いや何も…大丈夫、です」

大丈夫じゃない、全然。だって財布無い。人間だった時はいつも小さながま口の財布を持ち歩いていたが、いつどこで無くしたのか見事に無一文。

「あの、お代を…」

いつまでも動き出さないあたしに、茶屋のお姉さんが戸惑い出す。そんなお姉さんを尻目に、チラリと店の中を見渡す。茶屋の中に足の速そうな者はいない。あたしは鬼だし、多分足は人間達より速いはず。

「……………」

いやいやいや!駄目だ!目を覚ませ花子!
無銭飲食で店を飛び出るなんて馬鹿げた事はやめた方がいい。ここは正直に…と顔を上げた時「どうかしましたか」と隣から声が聞こえた。
ふっと視線を横にやると、あたしと同い年ぐらいの男の子がそこに居た。

「何か困っていますか?」

そう尋ねてきた彼。話すべきかと悩んだが、後ろが詰まってきているのに気付いて彼に状況を話す。

「……実は」

かくかくしかじか、どこで財布を無くしたのか。無一文だったが悪気があった訳ではないと二人に話せば、成る程と納得する彼等。だがしかし、代金は払ってもらわなければと困った様子のお姉さん。どうしたことかと悩んでいれば、スッと目の前に手が差し出される。

「それなら俺が出しましょう」

止める間も無く気にしないでと彼は支払いを済ませる。店を出て、あたしは彼に深く頭を下げた。

「ありがとう。本当に助かりました」

「どういたしまして、でも気にしないで。人の為、巡り巡って自分の為と言うでしょう?」

優しく微笑む男の子に心がキュンとする。ここまで心の綺麗な人間がいるのかと思わず感心してしまった。

「お金はすぐ返します。名前を聞かせてください」

彼にそう尋ねる。彼は困ったように控え目に笑って言った。
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