第1章 淡雪に燃ゆる想いを
鬼として人生をやり直すという重大決断を雑にして見事に道を踏み間違えた。"鬼人生"開始早々首を絞められ、スタートは最低。
前を歩く鬼はやけに冷たいし、名前も変だし。
でも悪態を垂れるあたしに、彼は何も言い返さない。もしかすると何と言えばいいのか分からないだけなのかもしれないが、案外そこまで悪い鬼ではないのかも。
嗚呼、考えたって分からない。
◇
「…なんだあれは」
あたしの隣で呟いた猗窩座は、遠くに見える茶屋の前に並ぶ人間達を見て怪訝な顔をしている。あたしの目指す甘味処は、この辺で一番美味しいと評判の団子屋だ。人間だった頃にも何度か来てたけど、あたしは鬼になっても団子を美味しそうだと思うらしい。だがしかし猗窩座は違う。
「あいつらは餅を喰う為に時間を要してあれに並ぶのか?」
馬鹿馬鹿しいと言いたいのか、まだ街にすら入っていないのに帰りたいオーラを醸し出してくる猗窩座。行こうと促すが、彼は頑なに動こうとしない。
「俺は帰る。行きたければ一人で入るんだな」
「団子が嫌いなの?」
「違う。アホらしいと言ってるんだ」
「大丈夫、男の人も居るって」
安心してと声を掛けるが、気に食わないのか彼は額に青筋を立てて一層不機嫌そうな顔になっていく。
「イラつく奴だな。そういう話をしてるんじゃない」
「どういう話?」
「だから俺は………」
「もー、なんでもいいじゃん!」
眉間にシワを寄せる彼の手を引っ張ろうとしたが、素早く避けられた。空振ったあたしの手。高く飛び跳ねた猗窩座は遠くの木に留まりあたしを見下ろす。そして「嫌いだ」と、一言あたしに言ってのけた。
「先程は邪魔が入ったが、俺はお前の実力をまだ確認出来ていない。それにお前はよく喋るが、饒舌な女は俺は嫌いだ」
「大人しい子が好きなの?」
「黙れ。お前とは気が合いそうにないと言ってるんだ」
「まだ判断が早いよ。もっとお喋りしてみないと分からないし、その為にも団子屋に行こう」
「…うるさい女め」
最後に目一杯嫌そうな顔をして、猗窩座はひゅんと風みたく消えてしまった。初めて真正面から嫌いだと言われた。でも気にしない。気が合うか合わないかなんて、出会って一時間やそこらで分かるはずないのだから。
取り残されたあたしだったが「まぁあのピンクの頭じゃ目立つか」と妙に納得し、一人で街に入ることにした。