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淡雪に燃ゆる想いを【鬼滅の刃】

第1章 淡雪に燃ゆる想いを


「邪魔者がきた」

舌打ち混じりにポツリと呟いた猗窩座。ぎらりと揺れる金色の扇子が視界の奥に見えたと思えば、高い背の鬼が音もなく目の前に現れた。いつの間に来たのか、広い和室の中に空気のようにポンと出てきたのだ。猗窩座とはまた違った印象だった。

「何やら騒がしいね」

「…………」

「あぁ、可愛い子がいるじゃないか。猗窩座殿の連れかな?」

驚くあたしを尻目に、明るい表情であたし達を見渡した。何やら人懐こそうな鬼だが、少し奇妙な感じもする。この鬼が来た瞬間に感じた違和感はなんだ。よく分からないが、彼は色んな匂いを体にまとわせている。肉が腐敗した感じの臭いや、女のきつい香水のような匂い、あとは鉛のような。匂いを必死で嗅ぎ分け考えるあたしを横目に、冷めた瞳で彼を睨んだ猗窩座。

「お前には関係ない」

「はじめまして、俺の名は童磨。君はなんて言うのかな」

「…………花子」

猗窩座を無視してあたしに笑う童磨。鬼と呼ぶには距離感の近い彼だが「可愛い名前だなァ」と何ら気にする様子もない。

「女、さっさと立て。外に行くぞ」

「なんだ、もう行くのかい?」

つまらないと唇を尖らせた童磨は、ひらりと扇子を揺らしてあたしを見た。

「なんだろう。君、少し変わった匂いがするね」

「え?」

「とっても美味しそうな匂いだ。栄養がたくさんありそうな」

ニタリと微笑んだ童磨に背筋が冷たくなる。怯えて固まるあたしの背中を押すのは猗窩座だった。

「この男の言葉をいちいち間にうけるな。流されるのは意志が弱い証拠だ」

行くぞと言われ、どこに行くのだと尋ねる暇もない。だがこの危険そうな臭いのする鬼とここで二人きりと言うのも考えもの。即決し、慌てて立ち上がったあたし。
その瞬間、ひときわ大きな琵琶の音が"ベン"と部屋に響く。途端に身体がぞわりと浮く感覚がした。歪んでいく視界の隅で、こちらにヒラヒラと手を振る童磨が見える。

「花子ちゃん。また会おう」

童磨の楽しげな声が耳の奥に残る。彼の言う"また"に、妙な説得力があるのはなんなのか。

「鬼になんてなるんじゃなかった」

あたしの小さな呟きが和室に消える。猗窩座の不機嫌な横顔、不思議な城と琵琶の音は、いつまでも記憶から消えないだろう。
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