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淡雪に燃ゆる想いを【鬼滅の刃】

第1章 淡雪に燃ゆる想いを


勢いよく振るった拳は見事に猗窩座の顔に入り、頬から嫌ってほど指に伝わる彼の歯列。途端に首から手が離れて、猗窩座の身体は物凄い音を立てて和室に突っ込む。

「いったぁ…!!」

彼を殴った右手の拳がじくじくと痛む。すぅと大きく呼吸をすれば、一気に肺に空気が入ってきた。咳き込みながら立ち上がろうとするが、やはり身体が軋んで動かない。
それにしても、鬼になったらこんな馬鹿みたいな力を手に入れられるのかとあたしは自分の掌を開いて眺める。恐ろしい。猗窩座は鬼だったから良かったものの、こんな手で人間を殴ったらきっとひとたまりもない。ゾッとした。

「なんだお前、やるじゃないか」

部屋の中から出てきた彼は、殴られて吹き飛んだにも関わらず満面の笑みだった。土埃にまみれて、嬉々とした顔であたしを見つめ「さぁ、来い」と手招きする。来いと言われても、今まで人を殴ったことなんて無いあたしの手は小刻みに震えてるし、腰が抜けたのか足には力が入らない。

「い、行かない!いま殴ったのは、あんたがあたしの首を締めたから…」

「お前も俺も鬼だ、殴ったぐらいでは死なない。いや、もう殺さない。少し手合わせするだけだ」

いいから早く来いと笑顔であたしを呼ぶ彼。

「来ないのなら俺から行く、」

「ちょ…ちょっと、まって!」

今にも飛びかかってきそうな彼を慌てて制止する。

「なんだ」

「ひとつだけ聞かせて……簡単な質問」

「さっさと話せ」

「…もしもあなたの言うように、強いことが善で弱いことが悪だとするのなら…自分の想い人が弱い時はどうするの?」

強い者が好きなのはわかった。でも反対に弱い者を好きになってしまったら、どうするのだ。
だがこんなことは別にそこまで気にはならない。ただ時間稼ぎのためだけに尋ねただけだが、思いの外あたしの質問に対して猗窩座は嫌そうに眉をひそめる。

「…つまらないことを聞くな。せっかく楽しめそうだったのに興醒めする」

「あなたが答えてくれたら、相手する」

「………………」

こちらをきつく睨む猗窩座。足元がゾワゾワするぐらい、彼の怒りがあたしに伝わってくる。一応考えているのか、あたしをねめつけながらもその場で固まる彼。しばらくその状態だったが突如何かを感じたのか、ふっとあたしから視線を逸らした。
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