第1章 淡雪に燃ゆる想いを
SIDE.童磨
「よくよく考えてみたら、あながち間違ってないかも」
風呂から上がったばかりの花子ちゃんが、俺の部屋に来るなりそう言った。着物姿の彼女の髪はまだしっとりと濡れていて、それを言うためだけに乾かさずに出てきたらしい。
「恋ではないと思うけど、何故か猗窩座を見ると変に緊張する」
「やっぱり俺の言った通りだ」
「でも好きって言うよりは、時たま記憶に引っかかるだけな気もする」
「ロマンチックじゃないか。前世で繋がっているのかもね」
閃いたように俺がそう言うと彼女は「それもあんまり嬉しくない」と難しい顔をする。
「教祖様、夕食の準備が……」
襖の奥から声がした。入っておくれと返事を返せば、夕食の配膳係りが部屋に入ってくる。
「わー、おいしそう」
並べられた料理を前に彼女は嬉々とした表情でいただきますをし、話の続きもどこへやら、美味しい美味しいと夢中でご飯を食べる。そんな彼女を眺めて俺は「君の方が美味しそうだ」なんて、ついポロリと言ったりはしない。しないけど、心の中ではそう思う。
「そんなに美味しいかい?」
「うん。おいしいよ」
「人間と比べてどっちが旨い?」
「え?」
眉をひそめた彼女は俺の言葉に目を丸くして「そんなのまずいよ」と。どうやら花子ちゃんはヒトを食べないらしい、食べたいとも思わないとのこと。あまりにも不思議な鬼の子。
そんな彼女は恐らく無惨様のお気に入りだ。それは忠実だからとか沢山の鬼狩りを殺すからとかそういうのではなく、彼女が半人間であり半鬼のような異形の存在だから。陽の光を浴びても消滅せず、鬼と違って心を持ってる。
「こんなに美味しいご飯あるのに変だよね。そもそも人間って食べるものじゃない」
面白い子だ。どうやら猗窩座殿は彼女が鬼になる前から彼女の事を知っているようだが、訳があるのか何なのか、それを彼女には伝えていないみたい。それは奇妙な関係で、花子ちゃんは猗窩座殿のことを知らないが、多分彼等は既に知り合ってる。
「君って本当に興味深いよ」
しみじみと呟いた俺に「あたしは美味しくないからね」と念を押してくる花子ちゃん。美味しそうだけど、ここでペロリと食べたら無惨様に凄く叱られそうだし、高みの見物でもしていようかな。
俺はよく食べる彼女を眺めて、ヘラヘラと笑った。