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淡雪に燃ゆる想いを【鬼滅の刃】

第1章 淡雪に燃ゆる想いを


着替えている最中、ふと痛みが無いと思えば、いつのまにか指が復活していた。あんなに綺麗に根本から無くなってたのに見事なまでに綺麗に元に戻ってる。気味悪いけど、でも爪の先まで元通りになった指を見ると感心はする。鬼の力はやっぱりすごい。

「………………」

洞窟の外では未だ雨が降っているものの雷鳴はもう遠い。治った指を見つめていると、あたしはふっと何かを思い出す。

「なんか、これ知ってる…」

頭の隅の方でぐちゃぐちゃに絡まった記憶が、凄まじい勢いで解きほぐされていく感覚がした。
呼び起こされるのは強い雨脚と薄暗い洞窟、充満した血の匂い。そしてそこに現れるピンク色の髪。
それとあと。

「……………」

何かが出てきそうで、でも出てこない。確かなのは、この景色が夢なのか現実なのか、とにかくこの状況は人生で二度目なのだということ。だがそれ以外には何も思い出せない。
家もわかる、家族のことも、道筋も自分のことも。なのにポッカリと穴が空いたように何処かの記憶だけが無くなっているのだ。
共通点があるとすれば、微かに残った記憶の欠片には彼がいる気がする。詳しくは思い出せないけど、でも猗窩座が現れると度々あたしの脳が彼を呼び止める。

「…なんでまた助けてくれたの」

雨の中にいた猗窩座に尋ねた。彼はどこか遠くを見たまま「無惨様のお達しだ」とだけ言う。

「違う。無惨様がそう言わなくても、猗窩座なら絶対助けた」

「…なぜそう思う」

「だってあたしが来てほしい時に猗窩座はいつも来るじゃん」

あたしがそう言うと、暗い空の下で雨に打たれる猗窩座はゆらりとこちらを振り向く。あたしを見た彼はなぜか満たされたように笑顔で、不気味なその表情に背筋を冷たくさせた。嗤(わら)ったまま、目を細めた彼はあたしを見つめる。

「お前は運の強い女だ。だから助けたのではなくて、たまたま助かっただけの話」

「たまたまって…」

「それ以上でも以下でも、何でも無い」

だってさっきから言うように助かったのは猗窩座がここに来たからで、運とかそう言うのでは無いのに。そうだと思いたいのに。

「もう、いい…」

あたしはそう言って猗窩座から視線を逸らした。何か思い出せそうだったが、思い出したくなくなった。
過去なんてどうでもいいと思えるぐらい今が楽しければ、昔の自分になど何も思い残すことはない筈なんだ。
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