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淡雪に燃ゆる想いを【鬼滅の刃】

第1章 淡雪に燃ゆる想いを


その後しばらく待ったが、誰一人として帰ってくる気配は無かった。
会えない時ほど恋しくなる。こんなに切ない気持ちになるなら、あの時鬼になることを選ぶべきじゃなかったと感じた。一体あたしは何の為に鬼になったのか。
家族が恋しかった?死ぬには若かった?まだ未練があった?どれも全部当てはまる気がするけど、それは誰もが皆同じことのようにも思える。

「あたしの物、持って行こうかな…」

あたしはそう呟いて立ち上がる。本当は会いたかったけど、よくよく考えたら死んだはずの人間が家へ帰ってきてるのは変だ。皆を驚かしたい訳では無いし、寂しいけど今回はもう諦めよう。

「着替えと、お金と……」

ブツブツと独り言をボヤきながら、布の鞄に荷物を詰める。お気に入りだった着物を鞄に押し込んだ時、奥に何やら硬い金属のような物を触った。不思議に思ってそれを取り出す。手に取ったそれは鉄で出来ていて、シンメトリーの形に真ん中には穴が開いている。

「鍔(つば)…?」

鍔とは刀剣の柄と刀身との境目に挟み込み、柄を握る手を保護する板だ。
それはそうと、なぜこんなものがあたしの鞄の中に?
裏表で違うデザインが密に施された鍔を見つめる。さぞ神経質な職人が掘ったのであろう。左右が面白いぐらい対象になっていて、まるでアクセサリーのように綺麗だ。じぃと眺めていれば、不意にこれがお兄ちゃんの物であったことをあたしは思い出す。そしてハッとした。

「鬼殺隊……だった?」

ポツリと呟く。手に持った冷たい鍔が途端に疑問を確信に変えた。その瞬間、雪崩のように大量の記憶の波が脳内に飛び込んでくる。まるで映画のワンシーンみたく、あたしの頭の中で沢山の映像が流れた。
詰襟によく似た漆黒の隊服。艶やかに光る日本刀と、凛とした藤の家紋。

「そうだ……」

お兄ちゃんは鬼殺隊だった。彼は努力の人だったから、入隊してすぐに柱とかいう強い人達のところに行って、それからはほとんど帰ってこなくなった。
それなら尚更、今の姿をしたあたしに会ったら悲しむだろう。やっぱり会うべきじゃ無い。
あたしは呟いて、鍔をポケットに押し込む。玄関出て少し歩いたあと、今一度家を振り返った。
もうきっと戻れない。人間だったあたしは死んだのだ。途端に胸の奥がエグれそうなほど痛くなる。それをグッと堪えて家から目を逸らし、また歩を進めていく。
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