第1章 淡雪に燃ゆる想いを
「火、綺麗だね」
人間が住まなくなった空き家のような場所に入り時間を過ごす。囲炉裏で燃える炎を眺めてあたしは呟いた。猗窩座は何も言わずに火を見てる。
「あたし、何で自分が鬼になったのか覚えてないの」
猗窩座は覚えてる?と彼に尋ねる。チラリとこちらを見た猗窩座。顔に炎の影がゆらゆらと移る。あたしが目を合わせると彼は視線を下に落とした。
「そんなもの覚えていない」
「きっと理由があるよ、猗窩座にも」
追求しようとすると、彼はどうでもいい事だと吐き捨てる。そしてまた部屋の中に静寂が訪れ、あたしは何ともいえずソワソワしてくる。我慢できず、懲りずにまた彼へ話しかけた。
「なんか寝れないから昔の話とかしてよ」
「口と目を閉じろ。なら寝れる」
「面白い話でもいいよ」
「殴って寝かしつけてやろうか?」
怖い顔をした猗窩座から逃げるように、あたしは凄い速さで畳に寝転がって「おやすみ~」と目を閉じる。
猗窩座って口は恐ろしく悪いが、きっと言うだけでそんな事したりしない。分かってるからこそ、イタズラしたくなるのかも。
ぱちぱちと、木が燃える音だけが部屋に響く。猗窩座は眠らないらしく、表情無く火を眺めている。彼は鬼らしくない。だって猗窩座は鬼に向いてない。鬼殺隊を見逃す彼の感情に鬼の欠片は無い。
「…もし、鬼をやめたいと思ったらどうすればいい?」
小さくボヤいたあたしに、彼はまだ寝ないかといったような面倒臭そうな顔をした。だけど少しばかり黙り込んだ後、ゆっくりと口を開く。
「鬼は皆、陽を浴びると消滅する」
そう言った後、ふっと何かを思い出したかのようにあたしのことを見た彼。
「そういえばお前、昨日はどこにいた」
「言ったじゃん。団子食べて童磨のとこにいたの」
「陽を浴びたのか?」
「浴びるも何も…ずっと太陽の下にいたよ」
そう言うと、彼は目を細めてあたしを凝視する。そして何かを考え込むように沈黙し「だから無惨様は」と推測するかのように呟いた。
「無惨様が何?」
聞いても、猗窩座は答えてくれない。唇を尖らせたあたしは、もういいやと目を閉じる。そこまで気にもならないし、なんだか眠たくなってきた。
その晩に見た夢は、おほろげで記憶が確かでない誰かが、あたしにニッコリと笑う夢だった。