第16章 魔王の親(男鹿辰巳)
大声で叫ぶ男鹿の前に頼華が現れた。
「あー、ベルちゃん、ごめんね」
「おい、俺は無視かよ!」
焦げている男鹿はさて置き、頼華は困った表情で男鹿の頭からベル坊を取り上げた。
「あー、ばー、うー」
「ごめんね、よしよし」
ミルクを取り出してベル坊をあやす頼華はまるで母親が子供をあやすそれだ。
「さすが頼華ちゃん、分かってるねー!」
「古市うるせぇ」
「ベルちゃんだけは別だもんねー」
「まだ怒ってんのか」
「可愛いね、ベルちゃん」
「はぁ…」
さぁどうしたものかと、男鹿は無い頭をフル回転させる。
どうやったら頼華の機嫌を直せるのだろうか。
「うむ、分からん」
「何言ってんだよ、男鹿」
暫くすると眠くなったのか頼華の腕の中でうとうととし始めたベル坊。
そうだ、と男鹿はベル坊が寝るのを見やると頼華の手を引いた。
「ちょ、どこ行くの辰巳」
「あぁ?いいから来いって」
「いってらっしゃーい」
「ちょ、古市くん!!」
男鹿に手を引かれてやってきたのは保健室。こんな不良学校でも一応ちゃんとベッドだけはあるらしい。普段使うものは殆ど居ないのだが。
「なに?こんな所まで連れてきて」
「まぁまぁ」
頼華を宥めながら腕の中で眠るベル坊を空きベッドに寝かすともう1つのベッドに座る男鹿。
「なぁ、こっち来いって、な?」
「ちょ、辰巳…!」
「しー、声抑えろ、ベル坊が起きちまう」
ひょいと抱き上げた頼華を己の膝に横抱きにすると男鹿は強く抱き締めてきた。
「なぁ、機嫌直せよ」
「……」
「ヒルダが嫁なわけねぇだろうが」
「…だって」
「お前しか要らねぇっての」
そんなこと頼華だって百も承知だ。
そもそもヒルダが男鹿なんか眼中に無いのは頼華も分かっている。
だけど周りが囃し立てる分、それなりに頼華も内心傷ついていたのだ。
それを男鹿のせいにして勝手に不機嫌になっていたのを申し訳なく思っているのも事実。
頼華はゆっくりと男鹿の背に手を回した。
「ごめんね、辰巳」
「分かればよし」
何処までも上からのこの男を好きになった自分の負けだと頼華は仕方ないと溜息を吐いた。