第15章 あなたは太陽(跡部景吾)
「ど、どうしたの?急に」
「いや…ちょっとな」
そう言った景吾くんの手が私の目元に触れる。
「……泣いてるぞ」
「え、」
どうやらお母さんのことを思い出したからか、自分でも気付かないうちに涙が溢れていたようで。
自覚した途端に堰を切って涙がこぼれ落ちた。
小さい子供みたいに泣きじゃくる私を景吾くんは只只慰めるように頭をずっと撫でてくれていた。
「少しは落ち着いたか?」
「…っ、うん」
「不覚だった、俺は」
「えっ、景吾くんは悪くない!あたしが…!ごめ─」
「謝んな。お前は何も悪くない」
「なぁ、夏祭り、俺様と行くか?」
景吾くんは優しい。とても優しい。そんな景吾くんと夏祭りに行けば寂しい気持ちも紛れる気がして私は静かに頷いた。
「なかなか似合ってるじゃねーの」
「へへ、そうかな…なんか恥ずかしいや」
景吾くんからの夏祭りのお誘いから数日後。景吾くんから頂いた浴衣を着て夏祭りに来た私達。白地に淡い紫の花が散りばめられた浴衣。どうやら景吾くんの特注らしい。こんなに貰ってばかりではと思い景吾くんの浴衣をお父さんに少しワガママを言って作って貰った。本麻の紺色のものだ。紺色にしてよかったな、と思う。
まぁ彼なら何でも似合いそうなのだが。
多くの人が歩いている中、一際目立つであろう彼を通り過ぎる誰もが目にしている。そんな彼の隣に私がいてもいいのかな
「頼華、お前今隣に居てもいいのかなんて考えてるだろ」
「うぇ…!?な、なんでわかるの…?」
「顔見りゃわかる」
どれくらいの時お前を見ていると思ってるんだと笑う景吾くんがとても眩しく見えた。
「お前だからいいんだよ」
そう言って繋がれた手を強く握る彼に心酔しそうだった。
景吾くんが買ってくれたりんご飴を手に私達は人混みを避けて神社までやってきた。
「食べないのか?それ」
「なんか勿体なくて」
鮮やかな赤にコーティングされたりんご飴。
初めて時が止まればいいのに、そう思った。
「ほら、花火が始まるぜ?」
「えっ………………わぁ!!」
夜空に咲く大輪の華、とはよく言ったものだ。色取り取りの花火が打ち上がる。ふと横を見ると闇に映し出される景吾くんの顔があまりにも綺麗で吸い込まれそうになった。