第12章 勇気(跡部景吾)
そしてあっという間に日曜日。頼華は初め彼氏を迎えに行くと付き人に伝えようとしたが、それでは付き人ありきで跡部を迎えに行ってしまう。その為、跡部に言われた通り、跡部から連絡があるまでは自室で待機していた。
ププーとクラクションの音がする。あ、と立ち上がった頼華は足早に自室を後にし門へと向かった。
「よぉ、頼華。」
「跡部くんおはよ───!」
親に挨拶する日、という大切な日だからかスーツ姿──所謂正装の跡部の姿があった。
「?…どうした頼華」
「…あ、えっと、いや…」
「見惚れたか?」
と顔を覗き込む跡部を首をぶんぶん横に振りながら押しのけようとする頼華。
「…お前も充分可愛いじゃねぇの」
「…!!」
「顔、真っ赤だぜ?」
頼華の服はこの日の為に跡部が用意したもので。白のワンピースに胸元にフリルをあしらったもの。跡部はふ、と笑うと頼華の手を取った。
「…行くぞ」
「…うん。」
「緊張してんのか?」
大丈夫だ、というように頼華の背中を撫でてやれば一旦深呼吸した頼華は緩やかに微笑んでいた。
「お待ちしてました、お嬢の彼氏さん」
門を開けるとズラっと頭を下げながら並ぶ屈強な男たち。この中で頼華は育ったのだと改めて実感する。別に緊張している訳ではないのだが自分達より数倍もガタイのいい男達を目の当たりにしたのは初めてで。その中を歩いていく跡部と頼華。
「ようこそ、紫咲組へ」
玄関付近には背の高い鋭い眼でこちらを見る一人の男。
「十夜、と申します。頼華お嬢の付き人です。」
どうぞ良しなにとこちらに笑いかける。
「…跡部景吾です。今日はありがとうございます。」
跡部は十夜に挨拶すると深々とお辞儀をした。
十夜に案内されながら室内を歩く。廊下の途中途中には生け花が所狭しと飾られていた。
「組長、お嬢と彼氏さんお連れしました。」
金の龍が描かれた障子の前で十夜は扉の向こうの主へそう言うと襖を開けた。
「…おぉ、待っていたよ」
そこには和装に藤の花が描かれた羽織を身に纏いにこやかにこちらを見る颯一郎の姿があった。