第12章 勇気(跡部景吾)
「…日曜日、かぁ…」
颯一郎の部屋を後にし自室へと向かう。元々和室しかない家の頼華の部屋は娘を溺愛する颯一郎の計らいでリフォームされている。ベッドに飛び乗り布団に顔を埋める。日曜日は確かに部活も丁度休みで。颯一郎はそれを分かった上で日曜日と決めたな、と頼華は1人ため息を吐いた。
次の日。いつもの様に跡部が頼華の席に迎えに来ていつもの様に部活が始まる。帰りに日曜日の件を話そうとは思うもののどう切り出そうか。と考えながら跡部専属マネージャーの頼華は跡部用のスポーツドリンクとタオルを準備していた。
「頼華、」
「…あ、跡部くん。」
お疲れ様とベンチに座った跡部にタオルを手渡したつもり、だったのだが、頼華の手首ごと跡部に掴まれていた。
「…何か考え事か?」
「…え?」
「さっきから心ここに在らずって顔してるぜ」
どうにも隠しきれてなかったようで。跡部の眼力はそれをも見抜くのかと頼華は少し心が楽になった気がした。
「…本当は部活終わってから話そうかなって思ってたんだけど」
「いや、いい今言え。」
「でも部活の邪魔しちゃうよ…?」
「お前のその顔の方が気になって仕方ねぇよ」
そう跡部に言われて頼華は思い出す。付き合い当初、何かあったら何でもいいから俺に1番に言えと跡部が言っていたこと。跡部は1番に自分のことをいつも考えてくれていたことを。
「…実はね、昨日なんだけど────」
と頼華は話し出す。それを聞いた跡部はニヤリと口元が緩んだ。
「…へぇ、それで日曜日に俺様を連れてこいと?」
「…うん。丁度日曜日部活も休みだし…でもそれをどう言って良いのか分からなくって。」
確かに頼華が悩むのも分かる。まだ中学生の彼等には親に紹介するには早いのではないかと。けれど頼華の育ってきた環境が故かはたまた颯一郎の気まぐれなのか──それは分からないが。
「…俺様も1度頼華の父親に挨拶に行かねぇとなとは思っていた。」
「…そうなの?」
「あぁ。まぁそれがお前にとっては早いとか思ってるんだろ?アーン?」
「…まぁそうだね。」
「…日曜日、挨拶に行く」
跡部の言葉に頼華はほっと胸をなで下ろした。