第12章 勇気(跡部景吾)
跡部side
頼華と付き合い出してそろそろ半年になる。付き合い当初はやはりぎこちなかった彼女も今やよく笑うようになった。恋人らしい事は沢山してきた。キスをすれば真っ赤になる彼女、手を繋げば恥ずかしそうにする彼女。ひとつひとつ彼女のその時の表情を忘れまいと脳裏に刻み込んで。だが半年も付き合っていれば別の欲も出てくるわけで。彼女の乱れた姿を見たくなって。誰も居なくなった部室に2人だけの今、俺は彼女をソファーに押し倒しているのだけれど。
「…頼華、」
「…跡部くん?」
「…なぁ、もうそろそろ」
いいだろ?と彼女の耳元に囁く。ぴくりと可愛い反応に俺は心臓がどくりと鳴り響く。
「…ごめん、まだ…」
そう言って俺のシャツをキュッと握りしめる頼華。もう何度目かと思いつつも決して彼女を怖がらせたい訳では無い俺は優しく頭を撫でてやった。
「…いや、俺こそすまねぇ」
頼華の手を引いて身体を起こさせ自分の胸元に抱き寄せる。彼女からふわりと香る俺が送った香水の匂いに俺は自分を埋めた。
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「お父さん、が…?」
「はい、組長がお呼びですお嬢」
学校から帰宅すると早々に父が呼んでいると告げられた。頼華の父親──颯一郎、紫咲組の15代目組長。颯一郎が頼華を呼び出すのは珍しいことで。いつも颯一郎から頼華の元を訪れるのだが今回は違うらしい。もしかしたら─と悟った頼華はカバンを付き人に任せると足早に颯一郎の元に向かった。
「…お父さん、」
「入りなさい」
襖を開けると縁側に腰を下ろし庭を眺めている颯一郎が居た。
「ただいま」
「おかえり、頼華。早速だが─」
と颯一郎は口を開いた。
「お前、彼氏が出来たそうじゃないか」
「…!!…どうして知ってるの?」
「…あんなに毎日送って貰って分からない方が逆におかしいだろう」
と颯一郎は笑う。
「…日曜日、彼氏を連れて来なさい」
お前の彼氏をちゃんと見定めるのが父親だろう?と颯一郎は笑いながら言った。
「やっぱりそう言うと思った。」
頼華は溜息を吐く。颯一郎は頼華を溺愛しているが故なのかたまに突拍子もないことを思いつくのだ。