第6章 その罪ごと(跡部景吾)
跡部side
「後をつけてくるなんて」
景吾くんにしては姑息すぎない?と萩之介は笑う。
「…まぁそうだな、悪い」
「…頼華に何の用事なの」
萩之介の顔は少し強ばっているように見えた。
「…どうしても龍ヶ崎が─」
「気になるんだね。」
珍しいねというような萩之介の表情。
「…頼華を傷つけたくないから、それを約束してくれるのなら話してあげるよ」
その言葉を聞いて俺は運転手に連絡する。萩之介を連れて足早に自室へと向かうとミカエルが予め用意してくれていたであろう2人分の紅茶が湯気を立てて俺たちを出迎えた。
「……何から話そうか」
萩之介は少し考えて漸く話し出した。時々苦しげに話す萩之介を俺は黙って見ていた。
「…これが頼華の全てだよ」
「…そうか、」
「…約束、必ず守ってよね」
「あぁ、言われなくとも」
世の中には自分の家柄を好きになれない奴もいる。そんなのは俺でさえも分かっていたつもりだが、龍ヶ崎の場合は話が違うのだと改めて思う。彼女の家柄を知っても尚俺は彼女が好きなんだろうと改めて実感させられた。
一人の女に固執することはここまでなかったのに。彼女の儚げな笑顔を見ると本当の笑顔が見たいと思う自分がいた。
そんな俺の心を見透かしたように萩之介は笑う。
「大丈夫、頼華は助けを待ってるんだと思うから」
俺は彼女を見守ることしか出来ないからね、と萩之介は言う。
俺がありがとう、と言うと笑って頷いた。
次の日、部活に行こうと部室へ向かうとそこには龍ヶ崎の姿が。いつもならもう他のマネージャーや部員が来ている時間にも関わらず誰もくる様子は無く。
「龍ヶ崎、」
「あ、跡部くん」
お疲れ様。と言った彼女は黙々と仕事を始めた。一時は来ないだろう部員やマネージャーに龍ヶ崎はどう思っているのだろうか。少し不安げな表情の彼女。これは萩之介からの贈り物だった。早く捕まえないと何処かに行ってしまうよ頼華は、と言った萩之介の言葉が俺の頭を過ぎる。らしくねぇな、と自分に溜息を吐きながら俺は口を開いた。