第6章 その罪ごと(跡部景吾)
「なぁ、龍ヶ崎」
「…どうしたの?」
「…お前に話がある」
そう言った彼の目から彼女は目を逸らせなかった。跡部に促されるがままソファに座った頼華。
「…お前は俺をどう思っている」
跡部の言葉はあまりにもストレートに頼華の心に刺さった。自分とは違う世界にいて眩しくてでも絶対に近づけない存在で──貴方が好きだなんて言えない。頼華は俯くしかなかった。跡部はと言えば頼華の困惑した表情に痺れを切らし彼女の横に移動した。
「!!」
隣に座るだけでぴくりと反応する頼華。
「…俺はお前が好きだ」
そう彼女に伝えると彼女は泣きそうな表情に変わる。それを横目に跡部は更に口を開いた。
「…萩之介から、聞いた。お前の家柄も、何もかも、全て。それでも俺はお前が好きなんだよ」
龍ヶ崎、と言う跡部の声は少し震えていた。もうここには居られないと立ち上がった頼華の手を跡部は掴んだ。
「…お前が苦しいと俺も苦しい」
「!!…な、んで…」
「だから言ってるだろ、お前が好きだから」
だから頼むからお前の素直な気持ちが知りたいんだ、と跡部は続けた。
「家柄なんぞどうでもいいんだよ。たとえお前が何であろうが俺が好きなのは龍ヶ崎頼華というお前自身なんだ。」
「あ、とべくん……」
頼華の目から止めどなく流れる涙。ずっと誰かに助けて欲しかった彼女。ずっと傍にいた滝以外の誰かに、家柄など関係なく自分自信を探して欲しいと切望していた彼女。
「…頼むから泣かないでくれ」
泣かせてぇ訳じゃねぇんだ、と彼女を抱きしめ跡部は言った。跡部の言葉が届いたのか否かおずおずと跡部の背中に回された小さな手。
「っ……あたしも、」
「あぁ、」
「…跡部くんが、好き」
それを聞いた跡部の彼女を抱きしめる腕が更に強くなる。こんなにも小さいこいつはどれだけの苦痛を今まで感じてきたのだろうと跡部は思った。
「…なぁ、龍ヶ崎」
「…?」
「…これからは俺様と共に生きろ」
その言葉に彼女は小さく頷いた。
例え裏の世界で生まれ育ったとしても、例え周りが敵になろうとも
その罪ごと君を愛そう
──それが俺に出来る唯一の事だから
(俺が何からも守ってやるから)
(お前はただ笑っていればいい)