第5章 照れ屋と優しさ(跡部景吾)
「好きやと思うで、跡部を」
「なんでわかんだよ」
「そらなぁー」
と忍足は言いかけて急に黙り込む。
「そら、本人に聞きや」
「は?だからお前に─」
「本人、頼華ちゃんおるで」
いつの間に屋上の入口に立っていた頼華。話が少し聞こえたのかおろおろしているようにも見えた。
「え、っと…」
樺地くんに聞いたらここに居るって聞いたから…と彼女は俯く。
「あとはお2人さんで仲良くしーや」
そう忍足は言うと屋上を後にした。
それと同時に頼華が俺に近づいてくる。あぁなんだろう、これは。今までどんな女を目にしてもドキドキなんてしなかったはずの己の鼓動が今は五月蝿いくらいに鳴っている。
「ねぇ…跡部くん、」
「…どうした?」
少し余裕が無い俺の返事。頼華から話しかけられるのはあまりに少ないからだろうか。俺の背中を汗がツーと伝っていくのを感じる。
「…えっと…その…」
「…?おい、頼華……!?」
彼女の顔を除きこもうと腰を曲げるとふわ、と彼女の香りが鼻についた。俺は今頼華に抱きしめられているのだと理解するまでに少し時間がかかった。
「その、ね…えっと……跡部くんが好き、だよ…?」
ごめんね、今まで伝えられなくて、とそう呟いた彼女を俺は思わず抱き締め返していた。
「あ、跡部くん…?」
「…やっと、欲しかったのをくれたな」
「ごめんなさい、慣れてなくて…」
「慣れてなくていい、お前が言ってくれるのをずっと待ってたんだ」
頼華、と耳元に囁いてみれば耳まで真っ赤にする彼女。よかった、頼華の気持ちを聞けて。普段男勝りの彼女もこんな可愛い一面があるのだと知っているのは俺だけでいい、と誰もいない屋上で彼女に己のブレザーを頭から被せて抱き上げ俺はキスをした。唇を離すと彼女は恥ずかしそうに笑った。
照れ屋と優しさ
(お前が照れ屋ってのはわかってた)
(普段男勝りなお前の女の一面を知るのは)
(俺だけでいい)
(あ、とべくん…!)
(なんだ、名前で呼んでくれねーの?)
(う…け、景吾くん…?)
(景吾、だろ?)
(い、いきなり呼び捨ては…!)
俺の事になると顔を真っ赤にする彼女が愛しくてまたキスしてやればもう、と小さい手で俺を叩くのだった
おまけで彼女sideあり→