第21章 あなたに(跡部景吾)
❀おまけ2❀
(婚約後日)
まさかのプロポーズとも取れる景吾くんのサプライズがとても嬉しくて。
改めてこんなにもだいすきになっていたのだと実感した。
その日は家に帰してもらえるはずも無くて、只只景吾くんがいる実感を現実なのだと彼の腕の中で噛み締めていた。
朝、目が覚めると目の前には未だ眠っている景吾くんの顔がドアップに映って、少しびっくりしたけれど彼を起こすまいとベッドから抜け出て窓際に立つ。
燦々と輝く陽の下で、青い薔薇たちが優雅にそこにいた。
ふと、窓際に置いてある卓上カレンダーが目に入る。
14日に一際大きく赤い丸が書かれてあった。
「…そうだ、バレンタイン」
結局、彼に渡せなかったガトーショコラ。
景吾くんは何も言わないけれど、きっと楽しみにしていたのかなと思うと少しチクリと心が痛む。
「…思いついた」
よし、と気合いを入れて景吾くんを起こさないように静かに扉の外へと出た。
──────────
「早く焼き上がらないかなぁ」
ミカエルさんにお願いして、厨房を借りることにした。
昨日景吾くんがくれたプレゼントのお返し、ってことでやっぱり彼にあげたかったガトーショコラを作っていた。
「大丈夫ですよ、料理お上手なんですね」
「よく母親と作っていたんです」
「それで…手際が良い訳ですね」
厨房の方々やメイドさん達にも褒められて少し恥ずかしかったけれど、きっと景吾くんなら喜んでくれる、そう思った。
「…よし、出来た!」
可愛いラッピングを用意してくれたミカエルさんに感謝して、厨房を出る。
景吾くんに早く渡したい気持ちがあって、不思議と早足で彼の部屋に向かった。
「…わ、ぁ…っ!」
部屋のノブに手を伸ばそうとした瞬間、向こう側からいきなり開いた扉に思わず身を引いた瞬間、暖かい温もりに包まれた。
「け、景吾くん。起きたんだね!」
「…」
「え、景吾、くん…?」
私を抱きしめて離そうとしない景吾くんに少しパニックになる。
「…朝起きたら隣に居ねーからマジで焦った」
「…!」
ごめんね、と言えば更に強く抱き締められた。
「こ、これ…」
「…ん?…ガトーショコラ、か?」
「…作ってたの。景吾くんにどうしても渡したくて…」
そう言えば、嬉しそうに微笑んで軽く頬にキスされた。