第21章 あなたに(跡部景吾)
どうやら話を聞くところによると、親父には決められた婚約者が居たらしい。
だが、父は母との結婚しか考えることが出来ず、周りを説得しまくって婚約にまで至ったそうだ。
母は頼華と同じ、裏の世界、とまでは行かないが、それなりの財閥とは全く無関係の、言わば一般人だった、という事だった。
なかなか親父もやるじゃねーの、とは思いつつ、自分の両親がこの2人で良かったと改めて感謝した。
「景吾、頼華さんを守れるのはお前だけだ。俺たちも後押しはするが、あとはお前次第だ」
「…はい、分かっています」
両親に許可を得た次の日。
俺は頼華の実家の前に来ていた。
以前来た時のように、勿論正装で。
インターフォンを押そうとすると、ギギギ、と重厚な扉が開き出した。
目の前にはあの時と同じ、自分よりも幾分かデカい屈強な男たちが並んでいた。
ただ、ひとつ違うのは門が開けきった時、真ん中に見知った顔が見えた。
「景吾くん、来ると思ってたよ」
「…颯一郎さん」
「さぁ、入って」
颯一郎さんに促されるまま、俺は応接間へと案内される。
そこからは庭にある鹿威しとその横に咲く、梅の花が鮮やかに目に入る。
「…アポ無しで申し訳ありません」
「いや、構わないよ。十夜に君を呼ぶように伝えたら、家を出たらしいって聞いてね。」
…十夜さん、相変わらずすげぇな。何処にいるのかも分かってんのか、と思いつつも、早速本題を切り出した。
颯一郎さんには、ストレートに、伝えればきっと分かってくれる気がした。
「頼華さんを正式に婚約者にしたいと考えています」
「ふふ、やっぱそう来たね」
まるで俺の心を見透かしたかのように、颯一郎さんは笑っていた。
「勿論、私は是非、と言いたい。が、十夜が君に言いたい事があるみたいだから聞いてくれるかな」
返事ひとつそく許可が出るとは思っていなかった。
しかし、十夜さんはどうなんだろうか。
あの人は誰よりも頼華を大切に思っているしな、と俺はごくりと唾を飲んだ。
入口付近に立っていた十夜さんがスっと颯一郎さんの横に立つ。
かなりの威圧に俺でさえも圧倒されそうになっていた。