第21章 あなたに(跡部景吾)
(跡部side)
目覚めるまでは、と思い布団からはみ出した手を握る。
元々小さい手が、更に小さく細くなっている気がした。
ガラガラ、と処置室の扉が開き反射的に手を離す。
どうやら、萩之介が連絡してくれたであろう、十夜さんと頼華の父親の颯一郎さんがいた。
「景吾くん、」
「…申し訳ありません、俺がいながら…」
「お嬢に何かあったら承知しないぞ貴様」
「まぁ十夜、落ち着け」
怒りをむき出しにした十夜さんが今にも俺に掴みかかりそうになるのを止めたのは、颯一郎さんだった。
「十夜から話は聞いてるよ。頼華も景吾くんもまだ若い。頼華も何も話さないから分からないが、きっと助けて欲しいんだと思うよ。」
そう言って穏やかに笑う颯一郎さんに少しほっとした。
「1週間前、バレンタインの日。お嬢をお前のうちの前まで送っていった。」
ぽつりと十夜さんが呟く。
「…その後のことは分からないが、それだけ伝えればあとは分かるだろ。」
「…はい。ありがとうございます。」
そうか、あの日…と独り合点がいった。
「暫く入院だそうだよ。毎日来てくれるかい、景吾くん」
「…良いんですか?」
「あぁ、勿論。」
「頼華を、よろしく頼むよ」
未だに眠る頼華の頭をひとなでし、十夜さんと颯一郎さんは帰っていった。
「…頼華。」
あの日、見た車は見間違いでも何でもなかったのだ。
あの場面を、頼華が見ていた。
また自分の知らないところで頼華を傷つけていたのだと知る。
だけどそれを知っても尚、手放す事なんて出来なかった。
ぎゅ、と頼華の手を握る。
こんなになるまで悩ませていたのだと後悔の念が俺の中を駆け巡った。
ふと、その手が握り返された気がした。
「…頼華…?」
「…ん、…け、いごくん……?」
「…頼華!」
無意識に彼女を抱きしめる。
「…景吾くん。」
「すまなかった。」
「…え?」
「…こんなに、悩ませていたんだな俺は」
「そ、そうじゃない…!」
「…頼華、聞いてくれ」
「あの日のこと、ちゃんとお前に話すべきだよな。」
静かに頷いたのを確認して、俺はあの日のことを彼女に包み隠さずに全て話した。