第21章 あなたに(跡部景吾)
(跡部side)
跡部財閥の力欲しさに近寄ってくる輩は今までも沢山いた。
氷帝学園の中では、頼華が俺の彼女だと全校生徒に公言したし、ファンクラブの連中も、頼華にはとても好印象だった。
だから、牽制できていた、あくまでも学園内の話だが。
見合いの話もかなりの数来ていたが、ミカエルに全て破棄させた。
しかし、父が連れてくるのは珍しく、父の世間体も考慮し、仕方なく相手をすることにした。
2人で話してきたらどうだ、と言われ、中庭を歩く。
「景吾さんはテニスされてるそうですね」
「あぁ。」
「景吾さんはとてもお強いそうで」
「そうですね。」
女と話していても、頭の中は頼華でいっぱいだった。
上辺だけの返事をしながら、庭を歩いていく。
ふと、何気なく外に目をやると見知った黒塗りの車がいた気がした。
「景吾さん?」
「…何でもありません、戻りましょうか」
2時間も居座ったやつらはやっと帰っていった。
父と母も会社に戻っていき、俺はさっき見た気がした黒塗りの車が気になって仕方なかった。
それから頼華にいくら電話しても繋がらず。
代わりに見知らぬ携帯からの着信に、何となく出てみれば十夜さんで。
どうやら頼華は調子が悪いとの事だった。
連絡しても一向に返ってこない返信に、そんなに酷いのかと気が気じゃなかった。
次の日、頼華を見かけ、あぁ、体調は戻ったのだと確信した。
だが、何かが違う気がした。
声をかけようとしても、たまたまなのか、それとも意図的にかは分からないが、話すタイミングを失っていた。
部活に行っても頼華はおらず、何故か忍足伝いに頼華と滝が暫く休むと聞いた。
頼華と話せない苛立ちから、気づけばテニスへの執着に変わってしまった。
頼華を見かける度に横にいる萩之介。
日に日に自分の眉間のシワが濃くなるのを感じていた。
(滝side)
あの日、十夜さんに頼まれてからずっと頼華のそばに居た。
日に日にやつれて行く頼華にどうしたらいいのか、分からなかった。
恐らく景吾くんの家の前まで行っていたらしいから、見てしまったんだろう。
そして頼華の事だ、それを誰にも言わずにまたカラに閉じこもったのだと。