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Amor vincit omnia__愛の勝利

第21章 あなたに(跡部景吾)




エスコートしているのだろうか。
気品があって綺麗な女の人。
自分とはまるで比べ物にならない。
にこやかに話すふたりを目にした頼華は一気に目の前が真っ暗になるのが分かった。

あぁ、やっぱり、あたしには、無理なんだよ。

明るい未来、なんて、ない。

裏の世界で生まれた人間は表には相応しくない。


彼女の中に以前からあったどす黒い感情。
跡部と思いが通じあったあの日から、それは見えなくなっていたはずなのに。
ふたりを目にした瞬間に、自分はここに居ては行けないのだと悟った。


「…もしもし、十夜。」
『お嬢、上手く行きましたか?』
「はやく、早く迎えに、きて」
『…分かりました、直ぐに』




それから自宅に戻った頼華。
苦しいはずなのに、涙が全く出なかった。
手元でぐしゃぐしゃになった包みをみて、静かにそれをゴミ箱に捨てていた。

その後、何度も跡部から着信や連絡があったが、十夜に頼んで調子が悪いと伝えてもらった。
連絡も、返信する気にはならず携帯を触ることもなかった。




次の日、学校に行ってからも何となく跡部を避けるようになった頼華。
部活も暫く休ませて、と忍足伝いに伝えてもらった。

十夜から、何となく事の経緯を聞いていた滝は、十夜から
『お嬢を頼む。』そう言われて、頼華の思うままにさせてやろうと彼女の傍を離れず見守っていた。




(跡部side)

バレンタイン当日。
昼過ぎから頼華と出かけるつもりで、今日は何処に連れて行ってやろうかなどと朝から考えていた。


「お坊ちゃま、旦那様と奥様がお戻りになりました」

今日の朝イチで父と母が帰国すると聞いていたから、出かけるのを昼過ぎからにしたのだ。


「景吾、長らくだな」
「お元気そうで、お二人共」
「景吾〜、会いたかったわよ〜」

いつもの様に、出迎えのハグをしていると、後ろに見知らぬ人影が見えた。

「景吾、お前に会わせたい人がいるんだ」

どうぞ、という父の言葉で現れたのは2人の人間。
男の方には見覚えがあった。
確かこの前の跡部財閥主催のパーティーにいたな…
話を聞けば財閥の傘下の子会社の社長だった。
と、するとその隣の女は娘か。
またか、と俺は心の中で舌打ちをしながら、年相応の反応をして2人を出迎えた。

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