• テキストサイズ

Amor vincit omnia__愛の勝利

第21章 あなたに(跡部景吾)




「おら、まだまだ行けんだろ日吉よぉ!」


跡部は容赦なく日吉にスマッシュを叩き込んだ。
いつものテニスコートとは少し雰囲気が違っていた。


「おいおい、跡部もうその辺にしといてやり」
「アーン?次はお前が相手してくれんのか、忍足」


さすがに2試合連続で長時間、跡部との試合をしていた日吉はもうすっかり疲れ切っていた。
それを見かねて声をかけたのだが、跡部には通用しないらしい。
忍足は静かにため息を吐いて、日吉と交代した。


「くそくそ、跡部のやつあんな調子でもう1週間だぜ」
「大方、頼華さんと何かあったんでしょうね」
「…それで八つ当たりされるこっちの身にもなって欲しいですけど」
「ったく、跡部のやつ激ダサだな…」
「ねぇ、樺ちゃんは知ってるんじゃなE〜?頼華ちゃんが部活来ないのも」
「…実は、跡部さん、頼華さんと連絡がつかないそうで…」


あー、やっぱり。と皆思っていた事が当たって、口々に溜め息をついた。


「…てか、龍ヶ崎もだけど滝も休んでるよな?」
「もう1週間になるぜ」

早く誰かどうにかしてくれ、と。このままではこちらの身がもたないと感じる彼らだった。




時は1週間前に遡る。
あの日はバレンタインで、頼華は内心ドキドキしていた。
はじめての彼氏、はじめて好きな人にあげるチョコ。
そして、何せあげるのはあの跡部だ。
どんな物をあげようか、1ヶ月も前からずっと考えていた。
小さい頃、よく母親とお菓子作りをしていた頼華。
それは今も健在で、父の誕生日とクリスマスは必ずと言っていい程頼華の手作りケーキが食卓に並んでいた。

そして、バレンタイン前夜にガトーショコラを拵えた彼女は跡部家の前まで来ていた。
今日は部活も休みで、跡部から昼から出かけるから迎えに行くと言われていたが、彼に黙って渡しに行こうと家までやってきたのだ。
いつもサプライズをしてくれる跡部へのお返しの気持ちもあった。

「お嬢、頑張って下さいね」
「う、うん、行ってくるね十夜」
「大丈夫、味は保証しますよ」

送ってくれた十夜を見送り、意を決して門のインターホンを鳴らそうとしたときだった。


「…景吾、くん…?」

門から見える中庭で、跡部を見つけた頼華は思わず手が止まった。
隣には見知らぬ女の人。
/ 159ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp