第20章 お題2
裾をまくっているからなのか、思ったほど動き辛くはなかった。が、動く度に青峰の匂いが鼻を掠めて、まるで青峰に抱き締めれているような感覚に陥っていた。
「あっ!危ない、頼華ちゃん!!」
さつきがそう言った時には反応遅く、頼華は頭部にボールが直撃してその場に倒れた。
「大丈夫か?龍ヶ崎」
「頼華ちゃん、頼華ちゃん!」
「うー……」
軽い脳震盪なのだろうが、青峰の匂いも相俟って余計にくらくらした。ボールをぶつけたであろう男子も駆け寄ってきた。が、その前に頼華に大きい影が差した。
「大ちゃん!」
「青峰!お前授業中じゃないのか!」
「ちゃんと言って出てきたっつーの」
ぼーっとする頼華の前に差した影、青峰の姿だった。
「こいつ、保健室に連れてくわ」
「お、おい!青峰!」
浮遊感を感じ目を開くと青峰と同じ目線になっていた。
「…だ、だいき、」
「じっとしてろ、大丈夫だから」
それに安心したように頼華は青峰に身を任せ意識を手放した。
──────
青峰side
つまらない授業中、外からボールが勢いよく跳ねる音とわーわーと人が騒ぐ声が聞こえた。何気なく目をやると、頼華が倒れているのが目に入り、柄にもなく血の気が引いた気がした。
担任が後ろで何か叫んでいるのを感じながらもすぐ様教室を飛び出した。
「大ちゃん!」
ぎょっとした顔でさつきがこちらを見ていた。
「ちゃんと言って出てきたっつーの」
な訳ねーけど、と心の中で呟きながら頼華を見やる。
ぼーっとしている彼女を躊躇なく抱き上げた。
「こいつ、保健室に連れてくわ」
「お、おい!青峰!」
「…だ、だいき、」
今の状況が飲み込めてないであろう頼華を安心させるように、大丈夫だからと言ってやれば、安心した顔で腕に抱かれていた。
保健室に着いて両手がふさがっているのもあり、足で開けたが生憎今は留守のようで。誰もいないことを確認して、奥のベッドに寝かせた。
揺れた前髪の隙間から、少し赤くなった額が見える。
「…冷やすか」
たしかここに、と探した冷蔵庫にあったアイスパックを額に当てる。
夢を見ているのか、ふにゃりと笑った寝顔に吸い込まれそうになった。