忍ぶれど色に出でにけりわが恋は物や思ふと人の問ふまで
第1章 出会い
真葛から見た柘植の九郎太の印象はこのような物であった。
滅多に見ないような皮羽織に立派な二本差しの刀、身分の高い侍のように見受けられながら浪人髷のように結っている。
しかし一番特徴的なのは見てきた男の中で驚くほど背が高い事であった。
座敷に入る時も、門をくぐる時も頭を打ち付ける事でもあるのか僅かに頭を下げる、事実障子の高さほどの背、六尺(180cm前後)はあるのではないだろうか。
それにつけて目鼻立ちが驚くほどはっきりとしている、当時の美醜感覚ではどうなのかは分からないが、真葛は意志が強く好ましい顔立ちだ、と判断した。
そう、彼女たちは言って客商売だ。男を見続けて生きていた。
異様な男だ、と感じたのはその容姿だけでは決してない。目が如何ともしがたい印象であり、それをどう捉えればよいのかと思っていた。
簡単に言ってしまえば決して善人ではない。悪人の色をしている。
とはいえ、同僚と同時に自害する事によってあの世で添い遂げようと言った客の男が、その同僚が自害した翌日に「恐ろしくなったきっと彼女も止めていると思った」などと訳の分からない事を言いながら現れるような、そういった性根の腐った物、小悪党とはまた違うような気がしたのだ。
それでいて噂を喋れとはおかしな御仁だ。
真葛は好奇心でその者の素性を聴きたくなっていた。好奇心は猫をも殺す。あってはならぬこと、仕事の手管としてならいざ知らず、ああ馬鹿げていると自嘲を含めながら、真葛はこの土地の情勢を、それはそれは出来上がった物語を聞かせるかのように、情緒豊かに語り手のように聞かせていた。