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忍ぶれど色に出でにけりわが恋は物や思ふと人の問ふまで

第7章 里帰り



それからまたしばらくの時が流れた。
お新は藤吉に騙されていた事を知り、藤吉はその時に討たれ死体も行方知れず、そんな折、とうとう水戸の御一行を追って上野伊賀までやってくる。

此処は伊賀忍者の住む里、名張者と柘植者と派閥を別にして暮らしているという。
城代の協力を得るため挨拶に向かった九郎太と、共を拒絶された真葛は柘植の里をゆるりと散歩していた。

小さな里だ、畑は痩せ、暮らしが豊かであるようには到底見えない。九郎太は恐らく、ここの出身者として里を見られることすら嫌ったかもしれない、お新も藤吉もいない今、傍に置いておくことを得策としたが、
そもそもここを抜け忍として飛び出した身、真葛に友好的な態度をとられるかというと不安も残るが、柳沢の名で守られていると思えば外よりも大分良いか。

しかし真葛もまた同じような暮らしから一転、その暮らしが苦しくなって女衒に売られた身。
里の子供たちに自分を重ねて哀愁に目を細めた。子供たちは珍しい余所者に興味を持って、薄汚れた遊び道具を持って近づいてきた、真葛は笑ってその相手を務める。

真葛は子供といえば禿しか知らない為子供相手はよくわからなかったが、それでも可愛らしいと思った。
孕むとなればそれは誰とも解らぬ客相手、夫婦にもなれぬ相手、その為子供など恐怖の対象であったが今はこの好いた男の育った里で、二人で暮らし好いた男の子を産み育てる、そんな幸せを想像してしまう。

―背後に気配を感じ、振り返ると年の若い男が傅いていた。

「真葛様、頭領がお呼びです」
「解りました、今向かいます、…ありがとうございます」

その男は案内すると立ち上がれば九郎太よりも背が高いように思う。顔立ちも暗い印象を感じる目元、柘植者というのはこういう血筋なのだろうかと真葛はついつい妄想に耽ったのであった。
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