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忍ぶれど色に出でにけりわが恋は物や思ふと人の問ふまで

第6章 猿芝居



佐々木助三郎こと助さんは一人路銀を受け取りに戻った後、一行との合流を目指す。
川の見える歩道を歩いていれば、川沿いに蹲る町娘の姿が見えた。根っこがお人よしが服を着て歩いているようなそんな男だ、慌てて駆け下りれば「大丈夫ですか!」と叫ぶ。

青白く汗をかいたその女は美しく、女好きの助さんの心をつかむのに十分であった。
慌てて咳払いをして、再び大丈夫ですか、と優しく問い直す。
女は助さんの腕を少し助けを借りるように掴んで、
「少し気分が悪くて、すいません、大丈夫です、すぐに良くなりますから」
と言った。次の町まで道は長く、医者も宿屋もない。次の茶屋すらも遠いだろう。助さんは困ったなと頭をかくがこんな女性を一人に置いていくわけにはいかなかった。

「では私もしばらくご一緒しましょう、少しでも気分が晴れれば次の町まで手を貸します。」
「まあ、そんな申し訳ないです、どうぞ私の事は気にせずお先に向かってください」
「いやいや気になさらず、こんな綺麗でか弱い女性を放ってはおけませんよ!どこに向かわれるご予定で?」
「まあ、ええと、その、掛川に」
「じゃあ私と同じだ!旅は道連れ世は情けですからね!」

はははと快活に笑う助さんに、女もつられて少しだけ微笑む。汗は引いて顔色もよくなってきたようだ。

「本当にありがとうございます、ええと、」
「助三郎と言います。皆からは助さんと」
「まあ助さん、私は――…真葛、と申します。」
「真葛さんですか!良い名だ!」

助さんは真葛を気遣う様に手を引いて歩道へ戻るとゆっくりとした足取りで再び歩き出した。
頬に朱が戻ったその横顔がいよいよ美しくも愛らしく、思わずしげしげと眺めれば真葛は顔をあげて

「どうかなさいましたか?」と問う。
「いえ、なんでも、ははは」

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